白縄堤VS邪悪な洋画軍団

ライフ・アクアティックの白縄堤VS邪悪な洋画軍団のレビュー・感想・評価

ライフ・アクアティック(2004年製作の映画)
4.8
ウェス・アンダーソン作品5作品目
個人レビュー2作品目。
2004年に公開されたウェス・アンダーソンのスタイルのユニークなスタイルが見え始めた良作。
海洋学者、ドキュメンタリー映画監督であるスティーブ・ジスーとそのチームが友人を食べた未知の生物「ジャガーザメ」を追う冒険譚...

というのは表向きでの説明である。もちろんその要素はたっぷり描写されているのだが、この作品の本当の見所はビル・マーレイが演じるスティーブと彼の息子(?)のネッド(オーウェン・ウィルソン)の関係性の発展だろう。世の中や社会に揉まれて疲弊しているスティーブが、まだまだ若く従順なネッドと時を共にしながら、時に喧嘩し時に家族のような愛情を見せる実に不器用な親子愛が見ることが出来た。

キャストは他作品に登場する「アンダーソン・ファミリー」のビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ウィレム・デフォー、アンジェリカ・ヒューストンを始めとする面子に加え、ケイト・ブランシェットやジェフ・ゴールドブラムなどの一流俳優なども参加するオールスターキャストだった。

この中でも1番評価すべきなのはオーウェン・ウィルソンだろう。父、スティーブのファンでありながらも30歳になるまで彼と親子の関わりをもてず、彼に対しての複雑な感情がマーブル模様のように混ざりあった状態を全て上手に演じ切っていた。ライトニング・マックイーンでお馴染みの彼だが、今作とダージリン急行でそのイメージはいい意味でだいぶ抜けたと思う。

ビル・マーレイも相変わらずの名優ぶりで、彼がアンダーソン作品にもたらすものは只者では無い。彼はアンダーソン監督がどのシーンでどのような感情を出してもらいたいか、オーディエンスをどのような精神状態に置きたいかを誰以上に理解してるのが見えてわかる。

この作品のシネマトグラフィも素晴らしいポイントのひとつだ。アンダーソン監督作品初期のものとはいえ、後の作品と繋がるシンメトリーを強調した画角やショット、何処を切り取っても美しいと思える色彩センス、彼が後に手がける『ファンタスティック・Mrフォックス』や『犬ヶ島』につながるストップモーションの水生生物達、そしてまるで絵本から飛び出たような美しいセット。
全てにおいて評価せざるを得ない仕上がりである。

正直なところ、フィルモグラフィに目を引かれすぎてストーリーの善し悪しに他作品ほど目がいかなかったのが事実だ。

今作はRotten Tomatoesなど批評サイトではアンダーソン作品の中でも特に低い評価を受けているが、彼のキャリアと彼特有の作品色の確立には欠かせないピースとなっていること間違えなしだろう。

さすがウェス・アンダーソン、本当に美しい作品だった。