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暗黒街の顔役のGのレビュー・感想・評価

暗黒街の顔役(1932年製作の映画)
4.9
世紀の天才、ハワード・ホークスの初期の代表作。デパルマの『スカーフェイス』(83年)のリメイク元としても有名。ちなみに、今現在、コーエン兄弟脚本、ルカ・グァダニーノ監督で新たなリメイクの準備が進んでいるらしい。自分が好きなのはやはりデパルマ版ではあるんだけど、この『暗黒街の顔役』の方がよりスマートかつ聡明、そして圧倒的に純度が高い。トーキー草創期における音声の利用、十字架の演出、経済的なストーリーテリング。そして、単純に滅法面白い。どこまで褒めても褒めすぎることはないでしょう。

映画は約4分間の長回しから始まる。マフィアのドンが何者かに暗殺されるシーンであるが、この「何者か」は口笛によって、後に主人公のトニー・カモンテであることが明かされる。トーキー映画が発明されたばかりの1932年に音声を利用した経済的な演出。まさしくホークスは天才だ。

そして有名なのが✖️のサイン。これはキリスト教における十字架、死のモチーフとして全編にわたって用いられている。原題である”Scarface”も然り。傷痕に破滅の予感を覚えさせる彼の生き様は”The World is Yours!”という皮肉に代表される。

あのデパルマは170分という長さの『スカーフェイス』を撮ったが、ホークスは93分でよりスペクタキュラーに撮り上げていた。サイレント時代から映画を撮っているからか、ホークスはショットに対する感性があまりに鋭く、それゆえ光と影の運動だけで全てを語ってしまう。その聡明さとトーキーの邂逅こそが『暗黒街の顔役』として昇華されたように思える。これを鑑賞した当時の観客は、その後の映画史に何を期待すれば良いのか。その途方もなさに祝福を送りたい気持ちだ。
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