杜乃日熊

天使にラブ・ソングを…の杜乃日熊のレビュー・感想・評価

天使にラブ・ソングを…(1992年製作の映画)
4.0
『天使にラブソングを』での歌唱シーンは観ていて元気になりますね。最初はお世辞にも上手いとは言えないクオリティだった聖歌隊に対して、主人公で歌手のデロリスが指導をすることで歌唱力が上達していき、やがて修道院が盛況となっていきます。

彼女らが唄うのは昔ながらの荘厳な賛美歌ではなく、ポップ調にアレンジした現代的な歌です。そのアレンジのおかげで、老若男女問わず楽しんで聴くことができるのです。また、ポップスは現代日本でも非常に馴染み深い音楽ですので、今の私達が聴いてもノリに乗ることができるのですね。

このアレンジというのは、ある意味で宗教改革と言えるのかもしれません。伝統を重んじることは素晴らしいことではあるのですが、昔ながらの形式にこだわってばかりでは、世のため人のために活動するという宗教の精神が損なわれてしまいます。

それこそ、『天使にラブソングを』における修道院の廃れ具合が伝統重視の宗教の限界を物語っています。街の治安は乱れていて、若者は修道院のミサに全く関心を持ちません。また、修道院の側もそんな状況を放置していて、数少ない高齢の礼拝者に向けてミサを行っていました。

そこへデロリスがやってきたことで、修道院は改善されていくのです。賛美歌を大胆にアレンジしたおかげで、若者もミサへ訪れるようになります。また、街の落書きを消したり食事の配給を行ったりなど積極的に地域貢献を行うようになります。「祈る以外にもできることはあります」というセリフが作中で言われるのですが、そうした考えに基づいて、修道院のシスター達は街へ繰り出し、陽気な賛美歌を唄うのです。

現代において宗教はどうあるべきか、ということを問いかける力がこの『天使にラブソングを』という映画にあるような気がします。
杜乃日熊

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