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長屋紳士録のTPのネタバレレビュー・内容・結末

長屋紳士録(1947年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

★1989年に続き2回目の鑑賞★

 捨て子と思われる子を近所の男が拾ってきて、その子とおばさんが1週間一緒に暮らした後父親が現れ連れ帰るというだけのシンプルなストーリーなのだが、登場人物間の遠慮のない物言いやセリフの間、表情など、おかしくってしょうがない。
 そして面白い中にもわざとらしさのない人情の移ろいを醸成していき、最後には人情の温かさをも感じさせる小津安二郎初期の傑作。

 映画の中の登場人物たちは、物のない貧しい生活をしているが決して不幸せそうではない。
 長屋のみんなでくだらない話をしたり、飲んだり、人間の幸せはそういう中にも間違いなく存在するもので、現代の、物欲が満たされないと人生は面白くないという考えは本来的外れなものなのだろうと考えさせられる。
 この映画で描かれるような温かい人情を感じさせる場面というのはめったには訪れないのだろうと思うと、寂しささえこみ上げる。

 最近の映画は、映像やストーリーが凝っているとか、物語の伏線回収とか、そういう外的な刺激や構成によって面白いと感じさせるものが多い(否定するわけではない)が、単純なストーリーでも十分面白い映画は作れるという見本のような作品で、31年前の学生時代に観た時と同じ高評価。というか、よくその時にこの映画に高評価をつけたとちょっと感心してしまった。

 なお、昔の日本映画はセリフが聞き取れなくて閉口するものだが、本作は8~9割方聞き取れるので、その点に関するストレスはない。
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