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長屋紳士録のaのレビュー・感想・評価

長屋紳士録(1947年製作の映画)
3.9
願うのは、その人の幸せ

今更ながら、小津作品初鑑賞。やはり日本人なら見とくべき作品と感じた。というか、これから小津監督を通して、そう思っていくんだろう。

今作はまさかの母性を語ったストーリーだった。母性といっても父親とはぐれ、行き先がない少年 幸平と父子に先立たれた、おたねの人情ドラマであって、実際の母子ではないにも関わらず、終盤のおたねの表情、幸平のおたねに対する気の和みは私には母性としか説明できない。他の子に対しても我が子のように接せれる。これも立派な母性なのかな、とも思う。

各々の俳優も魅力たっぷり。
おたねを演じる飯田蝶子のギッと睨みつける顔、手を払いながらの「メッ!」と声を上げたり。よく喋る性格も身近にいそうで思わず笑ってしまった。子役の青木放屁(←ネーミングセンスが素敵)は、セリフは少ないものの無愛想な顔に、常にポケットに手を突っ込むスタイルは、どこか愛おしくも感じさせる。

戦後の殺伐感は小津監督の何かしらのメッセージとも受け取れる。72分と短いが、日本の奥床しい心に焦点を当てて、その気品さを観客に伝染させていく。小さな町の小さな出来事なのに共感と感動が心を包んでくれる。

干されている敷布団、おたねと幸平が海辺で距離を置いて食べるおにぎり、笠智衆の歌声、動物園、写真館、どれも人間味が強く映るシーン。
寝付けない夜、きっと私はまたこの映画に触れたくなる。
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