あか

アヒルと鴨のコインロッカーのあかのレビュー・感想・評価

3.7
伊坂幸太郎さんを愛して止まないにも関わらず、持ってはいたのに何故か読んでいなかった今作。原作一気読みして、「いやどうやって映画にするん」と気になりすぎてその日に鑑賞。そうきたかあ。
始まりのどこかのどかで間の抜けた、奇妙で穏やかな世界観が、ボブ・ディランの歌にのせて描かれるのは、原作の空気がそのまま3Dに立ち上がったかのようで、本当に最高でした。あの、伊坂さん特有のカウボーイ映画というかなんというか。アパートの雰囲気も、ボロアパートと思いきや、いやそうきたか。こじんまりとして、でも少しお洒落で、洋画っぽい雰囲気がちゃんと醸し出されていた。
あととにかく役者さん最高。賓田さんはもう伊坂作品の住人だし、瑛太さんの、松田さん、最高。大塚さんも似合ってた。
でもやっぱり、こういう話は映像化すると、どうしても現実ではない「嘘の映像」を描くしかない。それがやっぱりどうなのかなあ。私達が初めて出会う琴実が笑いかけるのは山形出身の彼になってしまうわけで。でも、その過去回想(仮)部分は白黒の、どこか遠い昔の映画のような印象を抱いている椎名を通しての描き方は、むしろ良いような気もしてくる。
伊坂さんの作品は、湿度が低くカラッとしているのが特徴で、死や差別、価値観や犯罪を描いていても、達観していてじめじめしていなのが魅力だ。でもそれを、映画的に、いい意味でロマンチックに見せることに成功しているように思う。ドルジが車でな泣くシーンなどは、まさにそれだ。原作の言葉の魔法の包装を丁寧に剥がし、本質を徹底して描き、でも包装紙にある台詞も丁寧に散りばめていく。良い映画化だったように思う。
最後にコインロッカーに神様を閉じ込めるのを、椎名が提案するという変更は、より物語の人が人に影響を受け変わっていく今作の終わりとして非常に良かった。
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