百合

アンダーグラウンドの百合のレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
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覚えていてほしい

相変わらずの長尺でクストリッツァ…と思ってたら完全版は5時間もあるそうで。体力足りるかよ。
これが映画だよな〜と思う。会話劇も説明シーンもないけれど物語が十全にドライブしていくという当たり前のことをきちんとやるのがいかに難しいか。
映画なるものへの皮肉った態度も好きでしたね。この劇中劇はクソ監督によるプロパガンダ映画だけど、実際こうして作られた作品を我々は熱狂して受け入れるであろうことも容易に想像できるわけで。そんな劇中劇の‘外側’までをも連想させるのが上手い、し、ヤなやつだなと思う。
ナタリアと2人の男の関係性が最高だったんですけどあんまりそういう言及されてませんよね。よくないですかあの冷えた三角関係。ていうかナタリア役の女優さんが本当にタイプで眼福でした。ああいう泣き顔の女性はいかにも理不尽なことをされたみたいな顔で我儘を言い続けていてほしい。
クストリッツァは宴席のシーンを撮るのがひたすらに上手い。なんであんな楽しそうに映るんだろうと思う。素朴なのにね。最後のターニングポイントの結婚式シーンが本当によかったです。たたみかけるような音楽、ざわめき、ナタリアの嬌声、近視的に切り取られた世界。多幸感の具現化ってこういうのかもしれない。
三章は冗長だったな。いきなり地上に出てきて戸惑う、悲惨な人々、みたいな描写は息子のドナウ川のシーンでじゅうぶん巧みに出来ていたと思うんだけど、あのサルのあれは必要だったんですかね。いやエンディングに持っていくためにも要るのはわかるのですが。正直イライラしました。まぁ長いしな…集中力の切れどきというのもある。
「許すよ。でも忘れないからな。」でもう大円団みたいな気分にさせられてしまいますよね。ああいう登場人物達と同じペースで観客に人生を歩ませてしまう構造はずるいと思うんだ。もう絶対にいいなって感じるもの。
死と再生、共同体のサーガは全く同じなようでいて全く異なることを繰り返して延々と続くのです。それらをただ記憶して、伝えてゆきたいという欲望。「苦痛と悲しみと喜び」をすべて覚えていたくて、覚えていてほしいという欲望。稚拙だけど根源的なこの感覚は、これくらいの大作でもって描かれるに相応しいのだと思います。
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