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チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜のodyssのレビュー・感想・評価

2.7
【夢のような映画を作るなら】

筋書きがつかみにくく、どこか夢を見ているような感じの映画です。これ、褒め言葉なのか、その逆なのかは微妙なところで、実は私自身もよく分からないんですけどね。

話が進んでいくと、昔一目で恋しながら結ばれなかった美しい女性が鍵なんだと分かってくる。その思いはたしかに美しい。彼女の父親に認められずに仲を引き裂かれてしまうという悲しい記憶も含めて。

だけど、醜悪で我慢ができない現実に対して、美しい記憶があるから救われるのか、或いは現実が醜悪だからこそ、過去が美しく、またそれが芸術を生み出す素になるのかは、これまた微妙なところ。

そして、現実がこれほど醜悪でなくとも、美しい夢を見ることはできるはず。味気ない現実を誠実に生きながら、しかし夢を何かに結晶させていく、これが芸術家としてはあるべき姿なんじゃないだろうか。

この作品の醜い現実は悪夢のよう。それだけ恋人との過去は美しい夢になるのかも知れないが、悪者がいなくても夢は成立する。そもそも、映画ってそういう夢じゃないの? この映画でそんな夢を見たかったな。
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