ぶらいとん

テルマ&ルイーズのぶらいとんのレビュー・感想・評価

テルマ&ルイーズ(1991年製作の映画)
5.0
女性が生の実感を追求する話は元気がもらえる。人生ベスト映画。


※下記ネタバレあり

ー高島鈴『布団の中から蜂起せよーアナーカ・フェミニズムの断章』より

『テルマ&ルイーズ』は地獄の女たちが主役の最高の映画。ごく平凡なバカンスから始まる。亭主関白な夫・ダリルによって家庭に縛られているおっとりとしたテルマと、ダイナーの給仕係として働くしっかり者のルイーズが小旅行を計画。若くして結婚し、夫のせいで家から出られないテルマにとっては、ほとんど初めての旅だった。ふたりは浮かれていた。旅を全身で楽しもうとしていた。

だが、行きがけに立ち寄ったクラブでテルマをレイプしようとした男をルイーズが射殺してしまい、事態は急転。ちょっと羽目を外した旅行者から殺人事件の重要参考人となった。ふたりは生き延びるために車をひたすら走らせ、更に罪を重ねながらメキシコへ向けて逃避行を続ける。

<ふたりの覚醒>
前半、危機感の欠けた態度で何度も失敗をするテルマの変貌は特に眩しい。家にいた頃は夫に与えられた護身用の銃にも怯えて手を触れなかったというのに、過酷な逃走の過程でテルマは見事に銃を使いこなせるようになっていく。男に盗まれた金をスーパーマーケット強盗で取り返し、警察官を脅して振り切り、下品なからかいを向けてきたドライバーのタンクローリーをぶち抜いて炎上させる程度には…!

罪なんか犯すはずがないと思われていた「安全な女」がみるみるうちに大量のパトカーとヘリコプターと銃口に囲まれる「危険な女」として進化し、その姿を「本当の自分」として受け入れていく。抑圧され、暴力を振るわれながら生きてきた傷だらけの女ふたりが、自分たちを虐げてきたものを全力で振り切りながら、人生最初で最後の「最高の旅」を遂げるのだ。随所に散りばめられるふたりの笑い声!何度も聞きに陥りながらそれでもふたりはお互いを見捨てない。ふたりはふたりでいることを心から喜んでいる、それがはっきりとわかる、この映画はそういう笑い声に満ちているのだ。

ラストシーン、ふたりはキスを交わし、手を繋いで断崖に向かって全力でアクセルを踏む。砂埃を被ったターコイズブルーの車体が羽が生えたみたいに宙を舞う。ふたりは走り切ったのだ、最高の旅を終えて、死の世界まで。

追い詰められて追い詰められてアメリカ南西部の赤い砂埃にまみれたその果てでようやく掴んだ生の実感。決してヤニ臭いダイナーや妻を支配しようとする夫のいる家では得られなかった生の実感を握りしめたその絶頂が、あの宙を舞うオープンカーだった。それは誰でも手にできるものではない。最後のキスも、握りしめた互いの手も、全てが唯一無二で絶対的な一瞬だった。


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