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剥製師のmoekiのレビュー・感想・評価

剥製師(2002年製作の映画)
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恋愛の三角関係というフロイトを引くまでもなく歴史的に普遍性のある主題。冒頭の動物園のシーンでのペッピーノのヴァレリオに対する視線は不気味さを感じさせるものであり、それは悪だくみと愛——愛は一つの悪だくみにもなる——のこもったものに思えた。でも、ペッピーノとヴァレリオの同性愛的な関係が明確化される前の揺らぎの中、男二人のタッグの間にデボラが紅一点として加わるという男性:女性=2:1の構図は、『女は女である』『水の中のナイフ』などを強いてあげなくても(パッと思いついたから書いた)数えればいくらでも出てくる映画史において反復されてきたモチーフで、王道やるんだなーっと思って見ていた(ヨット?ボート?のシーンで『水の中のナイフ』思い出してた)。それと、ツッツッターン、ツッツッターンという3拍目にスネアが入る音楽とともにデボラが走るところを正面から映す画は、民放のドラマのオープニングかと思うほどテンプレに見えて笑ってしまった。そして、物語が進むに連れて三人の中心が紅一点であるデボラではなく若い青年のヴァレリオであるということがはっきりと分かってくると、ここまで繰り返されたテンプレートが裏切られるように思えてくる。実は、ヴァレリオとデボラの異性愛とヴァレリオとペッピーノの同性愛が作り上げている恋愛三角形だったのか。これが「異化作用」ってやつ!?ヴァレリオのためにデボラとペッピーノは対立的になってくるし、ヴァレリオもどちらにも同じくらい揺らいでしまう。全編を通してたくさん出てくるテンプレは差異化を図るために用いられて、それによって映画の歴史がハッキングされているように感じた。
最後はペッピーノがやられて男女の夫婦になって終わるんだけど、それが当たり前と思わされず、どうなってもおかしくなかった映画になってるところが素敵。
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