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ゆきゆきて、神軍のlingmudayanのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.0
奥崎謙三さんは一見すると奇矯な前科者だが、彼の行動原理には戦時中に犯されながら、戦後に裁かれなかった不正について断罪するという点と、遺族や無辜の人々に示す礼儀正しさ・優しさという点が感じられる。それに対し、ニューギニアで終戦後に部下殺し・人肉食を行ったかつての上官たちは「知らない」「覚えてない」、挙げ句は「英霊と遺族のためを思って黙っている」と無責任さを晒す。それでいて奥崎さんが辛抱強く説得し、合いの手を入れると冗舌に語り出したりして呆れてしまう。しかしこうした無責任さ、情けなさは現代日本のエスタブリッシュメント層にも広く見られることで、奇妙な馴染み深さを感じてしまうことが哀しい。奥崎さんは「神の法」を持ち出して法律や警察をものともしないが、彼を裁こうとする戦後日本は戦前とは異なるレジームで、それが彼の戦時中の不正を裁こうとする試みに適用されるときには奇妙な据わりの悪さを醸している。戦争を経て、またこうした特異な人がいたことによって生まれた傑作だと思う。
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