SHOHEI

上海から来た女のSHOHEIのレビュー・感想・評価

上海から来た女(1947年製作の映画)
3.7
マイケル・オハラは令嬢エルザに好意を持っていた。ある日暴漢に襲われていたエルザを助けたマイケルは彼女に夫がいることを知る。エルザの夫アーサーに船旅のクルーとして雇われたマイケル。アーサーはマイケルとエルザの関係に気づいていたが彼らを泳がせた。旅の途中マイケルは同行者のグリズビーから自身の殺人を頼まれる。今の生活から逃れるためグリズビーは自分の死を偽装して落ち延びようとしていた。マイケルは合意しグリズビーにかかっていた保険金を手にエルザと駆け落ちをしようと考えるが、実行当日事態は急変する。

オーソン・ウェルズの監督・脚本・主演作。ある女性と関わってしまったことから不条理な事態に巻き込まれるサスペンス。ウェルズといえば悪役の印象が強く、珍しい役回りに感じる。物語は主人公マイケルの独白で進む。それ以外の登場人物に関しては考えの読めない曲者ばかり。この読めない雰囲気が作品をサスペンスたらしめている。特にマイケルと妻の不倫を泳がせるアーサー、素性を隠し旅に同行する探偵ブルームらの存在が観客の心理を惑わす。物語に捻りを加えるための仕掛けとしてはやや複雑すぎる気も。ウェルズの本作製作当時の妻(公開時には離婚していた)、リタ・ヘイース演じるファム・ファタール、エルザにも魔性の気が足りない。アーサーとの結婚生活やそれ以前の生活においてどれだけ苦労を背負ってきた人間なのか、上海時代についても掘り下げ、彼女の人格形成について語っても面白いと思う。それだけで一本の前日譚が作れそうな感じもするが。実際、本編はウェルズの構想よりも大幅に場面がカットされているらしく、後に撮る『黒い罠』においても彼の意にそぐわない編集がされている。ウェルズの作家的な独創性が映画会社に認められずいかに不遇だったかを思い知らされる。暴力シーンも工夫を凝らし、クライマックスにおけるミラーハウスの銃撃戦は割れて崩れる鏡がショッキングな場面を演出。『黄金銃を持つ男』や『燃えよドラゴン』が後年オマージュをしているがそれよりも過激に見える。叶うものならば『黒い罠』同様、ウェルズ本来の意図どおりに復元された完全版を見てみたい。
SHOHEI

SHOHEI