菫

こおろぎの菫のレビュー・感想・評価

こおろぎ(2006年製作の映画)
4.0
自分にはこの男しかいない。
この男がいなければ自分もいない。

舞台は西伊豆。日常のなかで繰り広げられる摩訶不思議な幻想譚。中年に差し掛かった女(鈴木京香)は、盲目で口も聞けない老人(山崎努)と二人きりで暮らしている。二人は言葉を介在するのではなく、触れ合うことによってコミュニケーションを交わす。老人をいたわり、甲斐甲斐しく世話する女は、一見すると彼を「飼育」しているかのようだ。女はそのことに優越感さえ感じいるが、彼女もまた、老人がいなければ生きていけない。
やがて老人は奇異な行動を取るようになる。同じ頃、女はバーで出会ったカップルから、隠れキリシタンにまつわる不思議な伝説を聞くのだった。
印象的だったのは、向かい合った二人がフライドチキンにしゃぶりつく場面だ。老人は――おそらく、彼は不能なのだろう――油でギトギトにまみれた女の指を、執拗に舐め回す。性交などしていないのに、思わず目を背けたくなるほど、生々しく淫らだった。
青山真治監督の作品は、「東京公園」しか鑑賞したことがなかったが、作風が異なることに驚いた。他のものも観てみたい。
菫