昼行灯

さらば愛しき大地の昼行灯のレビュー・感想・評価

さらば愛しき大地(1982年製作の映画)
3.8
田舎の土着的血縁関係に由来する閉鎖社会が生み出した災厄って感じだな…

男はこうあるべき、長男はこうあるべきみたいなしがらみから主人公は解放されたかったのだと思う。だからこそ順子と同棲をはじめて、いわゆる核家族みたいな生活を歩み始める。けど順子は弟と過去に恋愛関係にあったこともあって、村のほとんどに二人の関係が知られてしまってるみたいな…

閉鎖的な関係、生活、人生から逃れるために主人公は覚せい剤に走ったわけだけど、確かにこんな選択肢のない人生だったら覚せい剤に救いの手を伸ばすのも仕方がないことかもしれない。修道院での生活は型にはまっているために死に等しい(だから修道女たちは死を恐れないという文脈)と聞いたことがあるけど、田舎での一生もそれに近いところがあるのでは。主人公はそれに抗いたかったんだろう。しばしば田んぼの稲穂が風にあおられるショットや村の光景が挿入されていて、彼らの置かれた境遇を否が応でも意識させられた。

途中精神病院の患者とフェンス越しに会話するシーンがあったけど、ラストでは主人公が拘置所?の高いコンクリートの内側に収容されているのが斜めにかつハイアングルで捉えられていて、主人公もあちら側に行ってしまったことが伝わってくる。順子を殺害してしまうシーンでも二人を捉えるカメラが斜めに歪んでいて、主人公の異常が強調されている。順子を刺したあとにすぐ弟の婚礼写真のカットが挿入されるが、婚礼写真が上下反対に映されているのが残酷だった。天地逆の婚礼写真とは言わばあるはずだった主人公と順子の婚礼が行われる前に弟がそれを達成してしまったということを表しているからだ。主人公のお前は俺から全てを取っていったという言葉通り、弟は主人公に無いものを持っているのだ。
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