せいちゃん

さらば愛しき大地のせいちゃんのレビュー・感想・評価

さらば愛しき大地(1982年製作の映画)
3.7
昭和世代にのみ伝わるであろう田舎のねっとり感。レビューでは暗い話と表する向きが多いが、こういう不幸話は当時ありふれていたよねぇ。
根津甚八とキムタクって角度によってかなり似てるよね?とか秋吉久美子がエロくて水商売風な演技が上手いとかいろいろ印象に残るが、キャスティングは全般にとてもよい。役者がよいからリアリズムにひたれる。

印象的な田んぼの緑と山の緑、そして一面の緑を裁ち切る直線の道路。ムラが集まっての葬礼や婚礼、対するにダンプ任せにあちこち吹かれていく現場の男とそれに伴う飲み屋の女。農業共同体やイエと、個人の性と生。地方に訪れた変化と裏側のうつろいを描いて、ひとりひとりに重さがある。

弟が成功し嫁取りもうまく行って……という部分は、共同体の存続ルートを一応用意しただけかもしれない。それが欠ければ全員が詰みの陰惨な話になってしまうだ。しかし。語られないその後、両親が死んで弟の代になり、孫たちの代になった時、農村共同体は存続しうるのか……。
それ込みで「さらば愛しき大地」の題名ではないだろうか。
人々は、さながらダンプで運ばれる砂のように、代々に息づいてきた土地から引き剥がされ、コンクリートに変えられていく。

知人からの伝聞だが……昔の彼氏が茨城の農村地帯の出身で、地元を毛嫌いしていたそうだ。法事か何かで同行した際には、ここで描かれているような世間体第一で噂話が好きで欲深くてスキあらばマウントをとる……的な陰湿感がビンビン伝わってきて、こりゃ嫌いになっても無理ないと思ったそうな。昭和の時代の話だ。時代は過ぎていまではこんな典型的な農村感覚はほぼ死滅しただろう……過疎化によって。
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