初めてこの映画を観た頃、ぼくは、「栗田ひろみの出た大島渚の映画」を観に行ったのか、「大島渚の映画に出た栗田ひろみ」を観に行ったのか。今になっては覚えてもいないことだし、そんなことどうでもいいことなのかもしれない。
以来、ぼく自身も歳を重ね、世の中のオモテもウラもそれなりにわかってきたつもりだ。そんなぼくが観た何度めかの『夏の妹』は、日本と沖縄とアメリカの関係を考えさせるものだった。
石橋正次はリリィを妹と勘違いし、本当の妹の栗田ひろみは石橋正次を兄とは知らない。擬似的な兄妹関係と、明らかにされない真の兄妹関係。三人のねじれた関係は、日本と沖縄とアメリカのねじれた関係のメタファーなのだろう。
武満徹の軽快な音楽の流れる中、沖縄の名所をめぐる栗田ひろみが素晴らしい。演技の上手い下手なんてどうでもいい。その愛くるしい存在こそが、1972年夏の栗田ひろみなのだから。あの頃、ぼくのまわりにいた普通の女の子たちは、夏でも皆んなTシャツにベルボトムのジーンズ姿だったけれど、お嬢さんグループに属する女の子たちは、映画の中でリリィや栗田ひろみが穿いていたような白いパンタロンで、颯爽と街を歩いていたことを思い出す。夏の陽を受けた白いパンタロンはぼくの目にはあまりにまぶしすぎた。
「沖縄なんか、日本に帰ってこなきゃ良かったんだ」と啖呵を切り、「もっと力をつけてまた沖縄に戻ってくるぞ」と宣言する直子(すなおこ)=栗田ひろみ。kぼくと同じように歳を重ねた彼女は、みずからの意思で、また再び、沖縄の土を踏んだのだろうか。
料亭とビーチで繰り広げられる大島組常連メンバーの演技合戦。気がつけば大島監督をはじめリリィを含めて、小山明子以外は皆んな鬼籍に入いちゃったんだなぁ。