チャンネルNECO
2015.09.

本作のアラカンは悪役だった。伊達騒動をベースに描いた嵐寛寿郎が演じる原田甲斐。
まあ元ネタのキャラ的に仕方ないけど。でもこれまで鞍馬天狗とか下田の天狗のような時代劇の正義のヒーローを演じてきた嵐寛寿郎が演じる悪役はこれまた新鮮な感じ。原田甲斐の冷酷な雰囲気もよく出ているし。

でもやっぱり自分は嵐寛寿郎は正義のヒーローが好きですね。

お話はともかく映像は良かった。特にキャラクターを真正面から映したシーンの美しさが良い。
アクションシーンは途中あんまないが、でもクライマックスの殺陣がやはり見どころだろうか。
監督が『風雲天満動乱』と同じだけど、アレのような大迫力のアクションでは無く、むしろ本作は廊下シーンでの長尺の凄惨さ。
長尺の廊下含めてクライマックス白い悪魔のような格好を原田甲斐が最初は襲ったのにどんどんと追い詰められていく殺陣シーン。一人かつ追い詰められるかつ主人公が悪役なので若干スカーフェイスみ感じちゃった。話は全然違うけど

新東宝時代劇も結構面白いな～と何本か息抜きに見ていたが、ここで息を呑むような重厚感のある傑作が来た。
お馴染み伊達騒動の話、アラカン演ずる原田甲斐の極悪ぶりが凄まじい。主君を嵌めて発狂させ、その子供である若君の毒殺計り失敗に終わると実行犯を殺害して口封じ。それに懲りず二度目には饅頭に毒を仕込み、側近の子供が犠牲となってしまう。歌舞伎の演目通りの流れ(らしい)とはいえ、これだけの悪行を何一つ悪びれず冷たい顔でやっていくアラカンの恐ろしさ。利己的な理由でもない、伊達兵部に対する忠誠心でもない得体の知れない悪漢ぶり。

ついに悪事がバレて刃傷に走るクライマックスも凄い。短刀片手に確実に仕留めようと伊達安芸にじりじりと迫ってくる様子から龍の衝立周囲での激しい攻防戦(俯瞰ショットがいい)、揉み合いの末に衝立をぶち破るまでの一連の流れの緊張感。その後侍らに囲まれてから刀に持ち変えての激しい抵抗。短刀→刀への変化は命を奪おうとする者から、命を奪われそうになる者への変貌を表現していると思う。

鞍馬天狗のおじさんや鬼虎の親分といったヒーローもかっこ良くて素敵だけど、こういったスケールのデカイ悪党をもっとやって欲しかったなあと思う。