ジャパニーズヒップホップの始祖
3月は何観ようと思い、そういえば最近邦画を全然観てなかったなということで、ここにきての昭和日本映画特集。
邦画はダメだと言われる昨今ですが、本当にダメなんでしょうか。
という訳でまずは、いまだに世界中に多くのフォロワーが存在するという日本の良心、小津安二郎の作品をぼちぼち観ていきたいと思います。
小津安二郎といえば、例えばジムジャームッシュの映画にもチラッと作品名が出てきたりしていたが、国内外で時代を超えて幅広く愛される作品を多く持つ伝説のお爺ちゃん。
作品のテイストや撮影の特徴もわりと一貫しているらしく、ほとんどの作品ジャンルが古き良き日本の家族の在り方を描く王道ホームドラマ。
代表作も数多く、特によく聞くのが「東京物語」で、今作「晩春」と「麦秋」を合わせた三作は何も原節子が紀子というキャラクターを演じているために「紀子三部作」とも呼ばれるとか呼ばれないとか。
さていよいよ晩春。
主人公である紀子と、妻を亡くしたその父ののんびりスローライフから紀子が嫁いでいくまでを描くシンプルなホームドラマ。
今作の登場人物はほとんど上記の親子とその親戚友人らのみで、多くがこの仲良し親子の暮らしを映したシーンによって構成されていたりします。
微笑ましい暮らしぶりと、父を1人残すことを恐れて嫁入りを拒む父想いの娘がついに嫁にいった後の父のしみじみとした姿で締める物語が素直にとても良い。
しかしやはり特筆すべきは個性溢れまくる撮影。
まず何よりもローポジション。
「小津は低い」とかねがね聞いてはいたけれど、ここまで低いとは。
カメラマンどんな体勢なんやろうと心配になるような徹底的なローポジション。
伝統的な日本家屋での、座り芝居が中心の映画なもんで、確かにこの特徴的なローポジションはよく映える。
と思っていたら外に出かけても低い。
ものすごいこだわりであった。
それから会話時の特徴的な切り返し。
これもよく言われる、イマジナリーラインの意図的な越境と不気味なカットの反復によって何気無い会話のシーンにも独特のリズムを生み出している。
イマジナリーラインについても日ごろそんなに気にして観ることはないけれど、いざ今作を見始めるとまずはギョッとする。
それだけ普段、映画の映像文法というのは律儀に守られているということなんでしょう。初めて観た時のインパクトはすごい。
ちなみにイマジナリーラインのことを知ったのは「パプリカ」です。
肝心のセリフの中身も独特で、「そうかい」とか「そうよ」といった同じ相槌が繰り返し反復されたりすることが多い。
反復とはリズムであり、リズムとは生活でもある。
からして、このようなホームドラマで描くライフサイクル、ルーティンといった人々の生活リズムの描写にも、この独特な会話リズムも一役かっているということでしょう。グルーヴというやつ。
つまりこれ、やってることはヒップホップとも呼べるし、呼べないのかもしれない。
という訳で、散々他でも言われているような、みんな知ってるような特徴のごく一部を実際に初めて観たので書き出してみただけのコピペレビューとなりましたが。
国内外に衝撃を与えた理由も納得の強烈な作家性。そしてこんな現代にこそ改めて沁みる素朴な純日本的な家族の物語。
今見ても全く問題なく楽しめる名作でした、オススメです。