百合

バベルの百合のレビュー・感想・評価

バベル(2006年製作の映画)
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バベル

旧約聖書で有名なバベルの塔の話の通りディスコミュニケーションについての作品。
なおかつ永遠にすれ違いつづける我々の実態を暴く作品でもある。東京のビジネスマンが好意の証として贈ったライフルによって一人の女性が生死をさまよい(国際問題にまで発展しかけ)、もう一人のメキシコ人の人生が途絶し、二人の子どもたちにも危険が及ぶわけだが、当の贈り主がそれらを知ることはない。わたし達の些細な行動は誰かの人生を変えてしまうものになり得るし、それをわたし達が実感できることはない。そんな切実さが浮かぶ。(それぞれのストーリーが絡んでいかないことに不満を抱えるレビューも多いがこの鬱憤の感覚こそがこの作品の主題の一つなのである。よくできたカタルシスの手触りの良さだけを感得していたければこの作品を見るのはお門違いだ)
東京に屹立する高層ビルの屋上で裸のろうの娘と父親は抱きしめ合う。ほとんどの人間が外国語を話さずとも暮らしていける日本においてディスコミュニケーションを設定するには聾というキャラメイクが必要だったのである(覇権言語である英語を話す二人が負傷・重体・異国という究極的に切迫した状況におかれたように)。言葉を話せない娘は肉体で他者と関わろうとするのだが拙いその試みはいつも失敗してしまう。この狭い島国にもバベルの塔は建っているのだ。彼女が迎える終局は血の繋がった父親とのバベルの塔の内部における抱擁で、ここにはすこし救いのようなものを感じる。だからこそエンディングにふさわしいシーンといえるだろう。
意図しない接続(ライフルにまつわる思わぬ事件)と望まない断絶(言語の/障害の壁がもたらす通じなさ)の間にかかった細いロープの上でわたし達は生きているのだ。
結婚式で新郎をとらえるショットの構図が独特でよかった。
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