名匠ジョン・M・スタールのメロドラマ。
1929年の大恐慌の夜。自殺を覚悟したジェームズは自室に届いた手紙を読む。その手紙には見知らぬ女からジェームズへの愛が綴られており…
という話はどこぞで見たことがある。クレジットに出てくるのは別の作家という事情があるにしても、「忘れじの面影」（オフュルス）と同じ原作の映画化。憧れの男と一晩過ごして子供ができるが男は女をまったく覚えていない、というのはプレコードの時代にこそ相応しいかも。
スタールの大傑作「裏町」（1932）のように人生をかけて一人の男を愛する女の物語。仕事もお金もあるし、一度の情事でできたとはいえ子供もいるし、「裏町」よりは良い環境に安心する。しかし、戦争から戻ってきてやっと再会した男のまったく覚えてない様子に呆れ果てる！もう子供もいるんだぞ（怒）。愛して子供もいるのに認識されないという絶望が計り知れない。女性は終わった恋なり愛には執着せず上書きするというけれど、そうであればこちらの主人公はレアなケースですな。男が書いてるからかしらん？理解し難いレアなケース故に純愛に昇華するという面もある。なんでこんな男のことを、というのもまた納得いかないけど掛け値のない愛なのか。パーティーやパレードで人生の重要事が起こるのだが、華やかな場所で裏切られるのがまた哀しい。物言わぬ女の眼差し。
主演は本作がデビューのマーガレット・サラヴァン。「裏町」のリメイク「裏街」（1941）にも主演。アイリーン・ダンの短い顔版に見えなくもないかも？
主演男優は「裏町」にも主演した顔の長いジョン・ボールズ。トーキー初期の歌う二枚目俳優「フランケンシュタイン」「ステラ・ダラス」など。
叔母さん役はビリー・バーク。エドナ・メイ・オリバーがほとんどモブみたいな役で驚く。