【1962年キネマ旬報日本映画ベストテン 第6位】
野上弥生子の小説『海神丸』を名匠・新藤兼人が映画化した作品。乙羽信子、殿山泰司、佐藤慶ら常連組に加え映画監督山本薩夫の甥・山本圭が出演している。
ヒッチコック『救命艇』や『逆転のトライアングル』みたいないわゆる漂流もの。身体をはった演技合戦は凄まじい。ただ盛り上げ方がイマイチで途中から飽きてしまった。
灼熱の日の下でもがく四人はみているだけで暑苦しい。灼熱地獄という言葉そのもの。そうかと思うと海が荒れ狂って右へ左へと揺さぶられる。
殿山泰司の迫力とちょっとズレた感じもいいし、佐藤慶の軽薄なワルっぷりもいい。乙羽信子の憑依演技はいつもながらすごい。そんな中割とナチュラルな存在感の山本圭もいい。
ただやはり展開は予想できてしまうし、心理描写ばかりで変わり映えしない画面に退屈してしまう。全体に舞台劇っぽい。
金比羅さまの夢とか新藤兼人らしい変わった演出は面白いが、サスペンス的山場があまり盛り上がらない。想定の範囲内に留まってしまうのが残念だった。
乙羽信子の最後も無理矢理な気がする。まずなんで外に見張りもなく寝かせるのか疑問に思った。普通医者がつきっきりで船室に寝かせない?日本に帰る船なんだよね?
さすが新藤兼人という演出手腕ではある。普通にいい作品だとは思うけど、設定の割にはインパクトがなかった。