百合

マルホランド・ドライブの百合のレビュー・感想・評価

マルホランド・ドライブ(2001年製作の映画)
-
わたしのあたまはどうかしている

初デヴィッド・リンチ!普通に面白かったです。笑いどころや追いやすい物語の起伏を用意してくれているあたり、初心者にも優しいつくりではないでしょうか。
ナオミ・ワッツの“どうかしている”夢を描た第1パートと、彼女の現実を描くと第2パートに分かれます。最も自然な時系列順での解釈。
ワッツ、ジルバの大会に優勝。ハリウッドへ。両親と別れる。
ワッツ、『シルヴィア・ノース物語』のオーディションに落ちる。代わって主役に選ばれることとなるローラ・ハリングと出会う。
(ハリング、映画監督アダムと恋仲に。もしくはもともと恋仲だった?)(ワッツはハリングに深い愛を抱くようになる。)
カウチでの情事、ワッツ、ハリングに捨てられる。ハリングはワッツをパーティーに誘う。
タクシーでマルホランドドライブを走るワッツ。いきなり停車「ここじゃないわ。なぜ停まるの?」「お楽しみだ」。小道から現れたハリングに連れられアダムのパーティーへ。
アダムとハリングの結婚が発表される。その様を見せつけられたワッツはハリングを激しく憎むように。「カウボーイ」が画面を横切る。
【物音】(ワッツはタクシーでマルホランドドライブを通って帰ったのだろうか?ひとりで?マルホランドドライブとアダムの屋敷の接続点は示されていない)
ワッツ、ウィンキーズにてハリングの写真と金を殺し屋に提示。「青い鍵」はハリング殺害の遂行の合図であることが明かされる。ウエイトレス「ベティ」、立ち尽くしている男「ダン」が少しずつ示される。
(ワッツ帰宅)
(ハリングの殺害遂行?)
ワッツは赤いシーツが敷かれたベッドで眠っている。ノックの音で目覚める。隣人に灰皿とスタンドライトを返し、コーヒーを淹れる。警察が彼女のことを探している様子。「青い鍵」を凝視するワッツ。【ドアからはミニチュアの「両親」が侵入し、彼女を追い詰める】ワッツは拳銃自殺し、白い煙が立ち込める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これら現実のアイテムに沿ったものが、“夢”のシーンでもたくさん出てくるわけです。
ハリングはタクシーでマルホランドドライブを走っている。いきなり停車「ここじゃないわ。なぜ停まるの?」:ワッツは現実ではハリングにうながされて降車したのですが、夢ではハリングが強制的に下車させられています。ワッツからすれば車を降ろされて恋人が他の男とイチャついてるところを見せつけられたわけですから、ハリングへの強制はその意趣返しという意図が表れていると読み取れます。
事故から逃げ出したハリングはワッツのアパートの庭で眠ってしまう。
【ウィンキーズで「ダン」が見た夢の話しを友人にしている。そしてその夢は現実になってしまう。】
ワッツ、アパートへ到着。怪我をしたハリングをベッドへ寝かせる。
【アダムが映画作品についての会議をしている。ハリングの名前でワッツのビジュアルである新人女優を起用するよう強制されるがこれを拒否。:ワッツとハリングが役を取り合ったのは別の監督の別の作品のはず?】
ハリングが目を覚ます。記憶喪失であることを告白し、かばんを開けるとそこにはたくさんの札束と「青い鍵」が入っていた。:ハリングは夢の中のハリングであり、ワッツの分身でもある。なのでワッツがハリングを殺す“ための”ドル札と殺した“合図”である「青い鍵」が同居しているのである
【アダムは横暴な出資者の車を破壊し、帰宅する。しかし家では妻が浮気をしていた。:自分(ワッツ)を落とした映画産業への苛立ち?アダムもまたワッツの分身でもあるので、ワッツ同様に浮気の被害を受けている。】
ワッツとハリングは「ウィンキーズ」へ。「ダイアン」という名前を思い出したハリング。ワッツは電話帳で「ダイアン」の名前をひき、電話をかけてやる「自分に電話するのって変な気持ちね」:「ダイアン」とは現実でのワッツの名前なので、まさに彼女は自分へ電話をかけているのだ。
アダムは「カウボーイ」と会う「態度を改めろ」「失敗すればお前はもう2度俺と会うことになる」:ワッツの分身であるアダムを通して、「カウボーイ」はワッツ自身に目を覚ませと言っている?この後「カウボーイ」はアダムのパーティーとワッツのベッドサイドに2度現れている「お嬢ちゃん、目を覚ませ」。
ワッツはオーディションに向けて練習している。付き合ってやるのはハリング。内容はワッツがハリングに愛想をつかして退室を迫るというもの。:しかし実際にフラれたのはワッツ。ワッツはここでもハリングに意趣返しをしている。
ワッツは「ボブ監督」のオーディションではかばかしい成功をおさめる。映画の中の映画。セクハラまがいの老俳優。監督を時代遅れとののしるエージェント。:「ボブ」は現実でワッツを落とした映画監督。罵りはそれゆえ?俳優はアダムのパーティーで端に映っている。
アダムは主役を選び直している。ワッツとの強烈な視線のやりとり。しかし圧力があるので彼は見た目はワッツ、名前はハリングの女優を選ぶ。出来レースのオーディションを受けることなくワッツは帰宅する。:落とされたワッツの楽観的な妄想。オーディションを受けずに帰るのは夢の中でさえ落とされたくはないから?
ワッツとハリングは「ダイアン」のアパートに忍び込む。そこでは赤いシーツの上で「ダイアン」が死んでいた。泣き叫ぶハリング。:ワッツは自分の理想の死後を見ている。だからハリングは激しく泣くのである。
アパートに帰った2人。ワッツはハリングを慰め、ウィッグを被せてやる。見た目が瓜二つに。:ワッツの分身であるハリングからハリング的要素が抜け始めている。
2人は気持ちを告白しあう。
深夜に目覚めるハリング。どうしても「シレンシオ(静かな)・クラブ」に行かなければならない。そこではスペイン語で別れた恋人を想う歌が流れている。「オーケストラはいない」「すべてはまやかし」。震えるワッツ。:「シレンシオ」という単語にリンチが込めた意味はわからない。しかしハリングを恋しがるワッツの夢である以上、恋人を想って泣く歌であることに必然性はある(しかもハリングはラテン系である)。そして支配人は夢であることを指摘するように「まやかし」と話す。しかしワッツは夢が覚めてほしくないので震えるのである。よって「シレンシオ・クラブ」はワッツがつくりだした夢の現実の交差点のような機能を果たしていると考えられる。
ワッツは自分の鞄から「青い箱」を見つけ出す。アパートに帰って「青い鍵」で開けようとしているとワッツは消えている。恐る恐るハリングが「箱」を開けると彼女もまた消えてしまう。:「鍵」はハリングが殺された証である。なので彼女は消えてしまう。
「箱」の中身は暗闇であることが示された後、アパートの持ち主であるルースが現れる。:「箱」の中にあるのはハリングの死なので真っ暗。ルースは冒頭で旅行に出るように撮られており、帰宅してきたということ?しかし現実ではルースは死んだとワッツが語っている。
しばらく彷徨うようなショット。ワッツのアパートの廊下へのディゾルブ。:視点の移り変わり。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夢を見ているときのご都合主義と身勝手さがここまで器用に描けるんだなと。リンチ本人は「ハリウッドの影の部分を描きたい」と語っていたようだが、まさにハリウッドの影に狂わされたワッツの愛と憎しみに、観客の視点を巻き込むことでこの主題を表現している。巧すぎる…
しかしつかれました。
百合

百合