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マイケル・コリンズのyukkiのレビュー・感想・評価

マイケル・コリンズ(1996年製作の映画)
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アイルランド独立の志士、マイケル・コリンズの生涯を描く。第一次世界大戦最中のイースター蜂起に始まり、凄惨な独立戦争の末ようやく勝ち得た平和は、内戦の勃発によってあえなく崩れ去っていく。暗い展開ではあるが、スパイ戦の撮り方など細かい工夫が多く、飽きさせないようになっていた。実際の歴史的映像を取り入れつつ、白黒とカラーの間でシームレスに移行する演出も効果的。ミック(マイケル)の人物像も魅力的だった。

アイルランド独立を巡っては、一次大戦後の国際秩序の改変の中で、アメリカのアイルランド系移民の暗躍や、イギリスの思惑など複雑な背景が絡み合っており、アイルランドの人々もそれらを計算に入れつつ立ち回っていたはずだが、そうした政治力学は背景にかすかに匂わせるにとどめている。イギリスやアメリカ側の要人は全く登場しない。話の焦点を絞るのに必要とはいえ、程度問題ながらもう少し思い切った場面転換や文脈の導入が観たかった気もする。後半に入ってようやくアイルランドの土地の風景が見えてきた時はほっとしたが、これも計算のうちなのかもしれない。

とはいえ、この映画は1996年、北アイルランド紛争がようやく決着に向かう中で撮影されている。休戦状態が破られたことで公開が延期になったという経緯もあり、作品の存在そのものが非常に政治的である。過度な政治化を恐れたためなのか、アイルランドのナショナリズム感情を煽るような歌やイメージも意外にほとんど用いられていない。アラン・リックマン演じるデ・ヴァレラの終盤での描き方も、何か奥歯に物が挟まった映像という印象で、繊細なバランスを取る必要のあった製作陣の苦労が想像された。

7世紀間に渡ってイギリスに苦しめられ、英語文化圏に組み入れられながらも決して同化することのなかったアイルランドの「英」語の響きは独特で、観終わったあとも耳に残った。史上最大の帝国の膝元で闘争を続けなければならなかったアイルランドの歴史を、きちんと知っておきたいと思った。
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