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ハズバンズの記録のレビュー・感想・評価

ハズバンズ(1970年製作の映画)
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確信を持って宣言するが「ハズバンズ」は「SEXと死」についての映画である。
ある時間を暴力的にフレームの内に切り取り、過去へと置き換えてしまう写真は現実と対をなす死であり「ハズバンズ」の冒頭はまさしくそうした写真=死という図式を高らかに宣言することから出発していく。
そのような死が招く停滞をカサヴェテスは容易に肯定しない。カサヴェテスにとって停滞とは「それまで」への決別であるとともに、「そのさき」へと向かうまでの得体の知れない靄の道中である。それは彼ら三人が各々イギリスの地でナンパした女性とのベッドでのやり取りの中に三人の関係性に重なる形で巧妙に演出される。
女にとってSEXとはその男と一本の線のように関係を結ぶことである。無論、女は子を産むからだ。男に比べて女は、一回の交わりによって自らの身体や環境が変化してしまう事態を招く確率が高い。それ故に女は安易に点で関係を持とうとする男をベッドの上で拒否する。こうした線と点の相容れない関係は男からの暴力的な身体的接触によって解けていく。拒否する体を強引にくすぐられる事で起きる反射的な笑いはそこに身体的な笑いのメカニズムを超える理由など含まれている訳がないのに、男にとっては関係を前進させる糸口になり得るし女にとっても無理矢理自分の身体から生み出された笑いを無視して拒否の姿勢を貫くことはできない。そうして曖昧になった線と点の対抗関係はついにキスという形で終戦を宣言する。「ハズバンズ」においてキスとは残酷なまでに死である。一度キスをしてしまうとそれまでの関係には二度と戻ることはできず、無慈悲な変化の急流に身を委ねるしかない。このことがまさしく友人を亡くした三人の関係の渦中で巻き起こっていたことであり、物語の終盤にはベン・ギャザラがまさしくキスによって二人に別れを告げる。
関係とは外にいる他者にとって気味が悪いものだ。関係は自然とその中で独自の言語を持ち、他者を断絶してしまう。テーブルに溢れんばかりのビールが並ぶ酒の場での彼ら三人の異様な佇まいが、街に蔓延る外国人留学生のグループが持つ独特な威圧感と似通っているのはそういう次第だ。さらに、関係の最中にいる者は簡単にはそうした自分達を客観視できない。客観視とはしようと試みて成功するものではなく、その瞬間が突如訪れるものだ。それこそがベン・ギャザラが洋服を着替えて家を出るタイミングで歩道に曖昧に佇む二人を遠目から見た瞬間であって、その時の視線が物語のラストにシャンパンを探す彼が見せる虚な視線に受け継がれていることこそが凄まじい。
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