にじのすけ

ミツバチのささやきのにじのすけのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
5.0
先日、同じスペイン映画の「パンズ・ラビリンス」を観て感心したのと同時に、本作に関して共通するものを感じたので、ちょっと思い立ってレビューを書き直してみました。もろネタばれあります。
本作の主人公アナは、名画「フランケンシュタイン」を観て、姉の嘘もあり”フランケンシュタインは実は目に見えない精霊が実体化したもので、真剣に呼びかければ必ず会える”と信じ込んでしまいます。6歳のアナにとって、内界と外界の区別はあいまいで、自分のテリトリーを離れればそこは彼女の五感に触れるもの全てが未知の驚異に満ちた世界なのです。カメラは途中でアナから見た世界そのものにシンクロしていきます。廃墟に隠れた逃亡兵を精霊だと思いみ、かいがいしく世話をするアナ。しかしすぐに彼は見つかり銃殺に。彼に貸していた上着がアナの父親のものだったことから、このことが家族にばれ、アナは家を出ます。深夜になり捜索が続く中、アナは森の中で、映画とそっくりなフランケンシュタインに出会います。恐怖と寒さで震えながらも、その目はどこかその恐ろしい”精霊”の姿に魅了されているようにも見えます。気絶するアナ。翌朝、発見され保護されたアナは自宅に戻りまるで言葉を奪われたように何を言っても反応しなくなります。その夜半、目を覚ましたアナは、月明りが差し込む縦長の窓に向かって立ち、そっと目をつむります。精霊に呼び掛けているのです。彼女は最後まで、現実と虚構、内界と外界の双方を行き来する存在であり続けます。本作を初めて見終ったとき、私自身が幼児期に取り囲んでいた世界がどんなものだったか、どう感じていたか、その感覚がよみがえってくるのを感じ、鳥肌がたったものです。幼いころ、私も映画の影響で”吸血鬼”の存在を信じてましたし、保育園へ行く途中の駐車場で、吸血鬼が日の光りを浴びて縮んでしまった物体を”発見”しては、おびえたりしていました。でも不思議なことですが、どこかで”吸血鬼”に魅了されていたようでもあるのです(その理由は今でも、うまく説明がつきません)。「パンズ・ラビリンス」から私が得た示唆は、内面世界と外界は実は想像以上に密接にかかわっており、お互いに影響し合っている、ということでした。本作は、子供のころは自明のことだったその事実を、大人になった鑑賞者の心の中から掘り起こし、生々しく体感させてくれる稀有な作品です。
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