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海外特派員の染のレビュー・感想・評価

海外特派員(1940年製作の映画)
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散りばめられた視覚トリックの数々もさることながら、帽子や傘に車といった小道具の使い方が実に素晴らしい。日常生活において何気ないような品々が非常に目を引く演出。「ニューヨーク・モーニング・グローブ社」の外観から建物内へ、議事堂前の真上からの傘の群れ(特に好きなシーンです)、犯人追跡の車の動き、可能な限りジョニーの視線に近づけた視点などなどカメラワークにも魅力されます。お陰でH.ハヴァストック命名やロンドンの新聞特派員スコット・フォリオットの名前の下りとか何気ないシーンも大好きです。
見所がありすぎて困る映画なんですが、兎角、上記でも上げた議事堂前の傘の群舞には脱帽です。階段に犇めく黒い傘を俯瞰で見せ、その傘が動く様だけで逃亡する暗殺者と追いかけるジョニーの姿を見せる。魅せられましたとも…!すごい!
風車の木材をまるでヒットラーの顔のように見せたり、ジョニーが宿泊している「HOTEL EUROPE」というホテルの窓を伝って逃げるシーン。その最中、EとLがショートして消えてしまう。「HOT EUROPE」(戦争目前だという暗示だと思われる)と読めるようになるという洒落たカットもしれっと盛り込まれていたり、ヒッチコックの手腕に唸るばかりです。
そして爆撃機だと誤認したドイツ戦艦による砲撃により、航空機が海上に墜落するクライマックスシーン。どんどんと迫り来る海面、そして衝突に割れた窓からコックピット内部に水がどどっと流れ込む。技術が飛躍的に上がった現在ならともかく、とても1940年(日本は昭和15年…!)に撮られた映画だとは思えません。圧巻です。まさに名カット!

空爆により停電するラジオ局でジョニーが話し続ける。残された明かりは米国のみ。その明かりを消さないため鋼鉄で覆い、戦艦と爆撃機で守れ。アメリカよ!世界最後の明かりを守れと。本編を観終わった後、どうだ 星条旗は今も波打つのか、歌詞にぐっと来てしまいました。
この映画からはどちらかと言うと戦争はよくないことだという想いが伝わってきます。ラレイン・デイ演じるキャロル・フィッシャー嬢は平和党の党首を父に持ち、「このような善意の素人集団が欧州の強い軍隊に対抗できると思う理由は?」の問いに対し、「戦争が始まれば、戦わされるのは善意の素人です」と毅然とした態度で返す。上手いなあ。

ゲイリー・クーパーに主人公役を断られてしまったものの、映画の出来栄えにクーパーが悔しがったという有名な話があります。
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