Hiroki

トゥモロー・ワールドのHirokiのレビュー・感想・評価

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
4.0
まず夭逝の天才SF作家・伊藤計畫がブログの『容赦ない、荒々しい存在としての映画』という記事で今作について書いてます。
とても素晴らしい文章なのでこの映画を観た人にはぜひ見ていただきたい。

監督は“スリー・アミーゴス・オブ・シネマ”の1人、アルフォンソ・キュアロン。
そしてもちろん撮影監督はエマニュエル・ルベツキ。
この2人の作り出す映像は本当に圧巻です。
ワンカットではなく『バードマン』でも見られたワンカット風の長回しがたくさん使われているが、切れ目が全然わからないくらい凄い。
そしてラストの戦闘長回しシーンでカメラに血しぶきがつくのだが、これは偶然の出来事。
撮影中にたまたまカメラに血しぶきがついてしまい、キュアロンがカットをかけようとした時にルベツキが「これは奇跡だ」といってそのまま採用されたらしい。
『カメラを止めるな』でもワンカット撮影時に台本にはなかったカメラマンが転んでしまうハプニングが起きたが、それをそのまま使っていた。

良作の撮影には奇跡が起こるんだな。

プロット的には2027年という近未来設定なのでテクノロジーがほぼ進化してない(むしろスマホとかもでてこない)ことも理解できるし、子供が産まれなくなったという物語の根幹の説明もまったくない。
これが前出の伊藤計畫の言葉を借りると

「容赦なく起こってしまう場に立ち会う装置」としての映画。

そんな圧倒的な状況描写への執拗なこだわり。これがこの後の『ゼロ・グラビティ』に繋がっていくんだなーと納得。

というか本当にもうこの内容的な考察に関しては伊藤計畫の文章が完璧な気がするのでそちらを見て欲しいです。
同じような事しか言ってない気がするので。

最後にタイトルは本当に酷すぎる。
原題『Children of Men』は聖書からの引用。
テロ組織の名前も“fish”とかなり宗教的なアプローチが強い。(伊藤計畫は「見えるものと見えないもの」と表現してたけど)
なのでせめて“希望の船”の名前にちなんで『トゥモロー』くらいの感じにして欲しかった。
『トゥモローワールド』はもはやフィリップ・K・ディックの世界観!

2020-91
Hiroki

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