近本光司

新道 前篇朱実の巻の近本光司のレビュー・感想・評価

新道 前篇朱実の巻(1936年製作の映画)
3.5
田中絹代がくるくると身を翻して大広間を走り廻る、それだけで画面がぱあと明るくなる。脇を固める俳優陣もみなうら若く輝いていてすばらしい。高峰秀子、川崎弘子、そして松竹三羽烏のそろい踏み。そしてわれらが愛してやまない小津映画でおなじみの斉藤達雄。隙あれば犬の話を繰り出し、テニスの巧拙で結婚相手の度量を測る、そんなカタブツの父を演じていて最高。いっぽうで野田高梧と五所平之助が書いたホンもおもしろい。さながらシェイクスピアの戯曲のような上層階級どうしの結ばれない恋。結末はいささか乱暴だけど、田中絹代の恋路はどうなってしまうのかとはらはらさせられる。