近本光司さんの映画レビュー・感想・評価

近本光司

近本光司

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(1965年製作の映画)

4.5

仕事に追われていたので、冒頭の五分だけ覗いてデスクに戻るつもりが、あまりにも素晴しいオープニングのショットの連鎖(三船敏郎の顔の余白に「侍」と出るタイトルコール!)に完全にやられてしまって、結局「終」>>続きを読む

The Village Next to Paradise(原題)(2024年製作の映画)

4.5

天国では風が強く吹いている。その風は砂埃を巻き上げ、布をはためかせ、海岸線の家々を揺らす。それでもアル=カイダ組織の飛ばすドローンは強風をものともせず、天空に轟音を撒き散らして旋回しては「天国のそばに>>続きを読む

Bloody Nose, Empty Pockets(原題)(2020年製作の映画)

4.0

オーストリア出身の映画監督の知人が、ブリュッセル時代にもっとも重要な場所だったと言っていた「Cinéma Nova」にて。わたしたちの訪問の折にたまたまロス兄弟の特集が組まれていて、旅先で偶然に見た。>>続きを読む

The Most Precious of Cargoes(英題)(2024年製作の映画)

3.0

強制収容所へ連れていかれる貨物列車にひしめくユダヤの人々の、疲れ切った顔、顔、顔。アニメーションだからこそ表現できる寓話性と、史実としての悪のリアリズムの融合。

A Traveler's Needs(英題)(2024年製作の映画)

4.0

毎年新作が発表され続けているホン・サンスに興味を喪って久しく、わたしにとっては『逃げた女』振りの新作。その五年の間に彼は七本も撮っていたらしい。まあ二日もあれば撮れちゃうようなものばかりだから普通か。>>続きを読む

ああ爆弾(1964年製作の映画)

4.0

初っ端から最後まで爆弾が炸裂し続けるはちゃめちゃなミュージカル。伊藤雄之助の題目を舞い、浪曲を歌いあげ、暴れまくる姿の、汚らしく耄碌したさまよ! すごい。子分として脇を固める砂塚秀夫もキュート!岡本組>>続きを読む

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作の映画)

3.5

戦後日本における典型的なサラリーマンとしての、江分利満、エブリマン、Everyman。もともと監督を予定していた川島雄三の脚本では彼は自室から一歩も外に出ないという設定だったというが、岡本喜八の手にか>>続きを読む

結婚のすべて(1958年製作の映画)

4.0

「あなたって人は一度だってわたしの心の呼び鈴を鳴らしてくれたことはないわね」「きみは謎めいたことを言うね」「鳴るのよ、わたしの呼び鈴だって。鳴らそうと思えば」
 いかにも大学教授という出立ちの黒縁丸眼
>>続きを読む

ぼくのお日さま(2024年製作の映画)

2.5

毒にも薬にもならない、むしろ毒。鑑賞中のわたしの脳裏に、この毒毒しい呪詛の言葉が到来してなかなか追い払うことができなかった。かつて果たせなかった夢の追究を大人が子供たちに代理させることはひとつの暴力と>>続きを読む

ビートルジュース ビートルジュース(2024年製作の映画)

3.5

モニカ・ベルッチという絶世の美女を射止めたオタクくんが、その新しい恋人をいかに美しく撮るかと腐心するさまが見てとれる。その試行錯誤の様子はひどく感動的!

チャレンジャーズ(2023年製作の映画)

3.0

テニスコートの両陣を分け隔つネットを伸ばした先にゼンダイヤが座っている。ボールの行方を追って首を左右に振る観客たちの中心で、サングラスを掛けた彼女は微動だにしない。彼女は何を視ているのか。何を考えてい>>続きを読む

蜂の巣の子供たち(1948年製作の映画)

3.5

「義坊が海を見るたんびにカアちゃん! カアちゃん! と叫んでたみたいに、おれたちも山を見たら義坊! って叫んでやるから、義坊はちゃんと大きな声でハイ! って返事をしなきゃいけないよ」と、自らの手で義坊>>続きを読む

どうすればよかったか?(2024年製作の映画)

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他人の人生に評価を下すことはできない。わたしたちには「どうすればよかったか」という問いにこたえる資格はないのではないかと思ってしまう。姉の出棺時に場内で流れるビートルズ。棺に入れられる苺のショートケー>>続きを読む

トレンケ・ラウケン Part2(2022年製作の映画)

4.5

わたしたちがラウラとともに覚知してきた物ごとが、第二部において残響のように回帰する。ラウラは平原を延々と彷徨しながら自らの姿を1969年のカルメン・スーナに重ね合わせていただろうし、馬に跨ったときには>>続きを読む

私の想う国(2022年製作の映画)

3.5

いままさに生起せんとする運動を撮ること。クリス・マルケルから授けられた金言「火事を撮りたければ、火がつく前に誰よりも早く炎があがる場所に赴くこと」を胸に『チリの闘い』を撮ったグスマンが、半世紀近くのと>>続きを読む

Shall we ダンス?(1996年製作の映画)

4.5

はじめから最後までずっと泣いてしまった。あまりにも美しい映画。コメディ調でありながら、凡庸で退屈な中年のサラリーマンがいかにして社交ダンスと出会い、やがて情熱を傾けるに至るかという変遷の描写がとても巧>>続きを読む

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)

3.5

ポリオを患い、左手と右脚の自由が効かない男の子。トモエ学園に在籍する不具の同級生をめぐる描写が、軽く明るいタッチのアニメーションのなかでひときわに印象に残る。トットちゃんに唆され、決死の思いで校庭の木>>続きを読む

孤狼の血(2018年製作の映画)

2.0

正視に堪えない拙さ。これほど潤沢な予算を投じ、名の知れた役者を揃え、こんな無様な仕上がりになるなんてと昏い気持になってくる。意味のないカットが多すぎて終始いらいらした。ろくに演出もできない監督のもとで>>続きを読む

ざくろの色(1971年製作の映画)

4.0

18世紀のアルメニアの宮廷詩人サヤト-ノヴァ(「詩歌の王」)の生涯をたどった伝記映画という触れ込みだが、この作品はむしろ、アルメニアの大地で無数の人たちの交錯によって育まれてきた文化の一断面図という印>>続きを読む

CURE キュア(1997年製作の映画)

4.5

10年ぶりに観る『CURE』の上映中、わたしが眠りに呑まれたのは数十秒に満たなかったように思う。その短く浅い眠りで昔の恋人が死んでいた夢を見た。若くして自死を選んだ彼女に、もう二度と会うことすらかなわ>>続きを読む

火の馬(1964年製作の映画)

4.0

最後に待ち受けているイヴァンの死を目の当たりにして、どうしてわたしたちはこれほど無感動でいられるのだろうか、という疑念。彼の死の瞬間が直接的に描かれなかっただけではない。映画を通じてイヴァンの生涯をと>>続きを読む

Grand Tour(原題)(2024年製作の映画)

3.5

しだいに半覚醒の眠りにうちに招き入れられ、わたしが見たイマージュの群れははたしてスクリーンに映っていたのか、それとも瞼の裏で拵えたにすぎなかったのかがあまり定かでない。夢現のさかい目を融解させるエクリ>>続きを読む

ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(2024年製作の映画)

3.5

イスラエルの入植者が長年にわたり一方的に土地収奪を進めるMasafer Yattaで、罪なきパレスチナの民に引き金を引いたのは、IDFの兵士ではなく、自警団のようないかにも小市民的な人物だった。さらに>>続きを読む

サブスタンス(2024年製作の映画)

2.5

もっともおバカで、もっともキッチュで、もっともフェティッシュで……とつい流行りに乗っかってしまいそうになったあさましい自分を諌めます。当然のように嫌いな作品だったけど、製作陣にひと言だけ届けるとしたら>>続きを読む

夜明けのすべて(2024年製作の映画)

4.0

上映後の質疑応答で、中国系の若い女性がマイクを握る。わたしは三宅唱監督の大ファンです。これまでほとんどの作品を観てきました。この作品もすばらしかったんですが、三宅さんの監督作品はどこか「現実みのあるお>>続きを読む

福田村事件(2023年製作の映画)

2.5

被害者と加害者というあきらかな対立構図があったら、むしろ加害者の側に立って所与の問題について考えようと想像力を働かせてみる。関東大震災の直後、朝鮮人が横暴を働いているという流言飛語を間に受けた変哲のな>>続きを読む

あんのこと(2023年製作の映画)

2.5

河合優実の中途半端なプリンとか、佐藤二郎のイヤにパキッとした白シャツとか、そういう瑣末な詰めの甘さにばかり注意がいって作品に入り込めずにいた。杏の胸中の変遷を描出していくという監督の関心事は明らかであ>>続きを読む

流れる(1956年製作の映画)

3.5

はじめて見たときに湧き上がってきたエモーションの感じ、をよく憶えている。久し振りに見直して(劇場で見たのははじめて)、どうしてそんなに感動したのだろうと不思議に思った。今回はむしろ技巧というか、成瀬な>>続きを読む

人間蒸発(1967年製作の映画)

2.5

カトリーヌ・カドゥの手がけたフランス語字幕が見事で、ダイアローグを聞きながらずっと字幕を目で追っていた。上映終わり、1960年代の日本を知る日仏の観客たちと立ち話。現実が虚構で虚構が現実で……それすら>>続きを読む

祇園囃子(1953年製作の映画)

4.0

溝口健二の父はあるとき事業に失敗して溝口家の生活は困窮し、やむに止まれず姉が芸者として働きに出て、稼ぎ頭となって溝口一家の家計を支えていたという。この作品は『祇園の姉妹』以上に、溝口少年が幼少期の頃に>>続きを読む

Maria(原題)(2024年製作の映画)

1.5

パブロ・ララインが監督で、アンジェリーナ・ジョリーがマリア・カラスを演じた伝記映画と聞いて、怖いもの見たさで観に行きましたが、案の定というべきか耐えられなくて中座してしまいました…。千人くらいがつめか>>続きを読む

Marco, The Invented Truth(英題)(2024年製作の映画)

3.5

おもしろい。じつにおもしろい。スペインではホロコーストの生存者のスポークスマンとして名の知られたエンリケ・マルコの嘘が白日のもとに晒されてゆく。彼は戦後の数十年ものあいだ、大衆はおろか、家族さえも生存>>続きを読む