近本光司さんの映画レビュー・感想・評価

近本光司

近本光司

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バックルームズ(2026年製作の映画)

3.5

エンドロールが終わって席を立とうと思った矢先、べつの映像が映し出される。すでにほとんどの観客が劇場を後にしていて、残されたわたしたちは顔を見合わせてからスクリーンを見あげる。バックルームズの調査に携わ>>続きを読む

オデュッセイア(2026年製作の映画)

2.5

無意識に潜入してゆくミステリ。宇宙の涯てで紡がれるラブストーリー。戦線を駆ける兵士たちのアクション。時間の概念と戯れるサスペンス。原子爆弾開発者の懊悩をめぐるドラマ。クリストファー・ノーランは、しだい>>続きを読む

ディスクロージャー・デイ(2026年製作の映画)

4.5

隅から隅までスティーヴン・スピルバーグの映画を観てしまった。この感慨は宮﨑駿の『君たちはどう生きるか』を観たときのそれに似ている。『未知との遭遇』から半世紀のときを経て老境のスピルバーグがあらたに世に>>続きを読む

花緑青が明ける日に(2026年製作の映画)

3.5

とにかく色、色、色。あの色彩だけで、アニメーションとしての勝利がある。しかも色彩だけにとどまらず、いくつもの表現技法を周到に組み合わせて一本の長編映画に仕立てあげている。尺は78分。絶妙だ。行政代執行>>続きを読む

我々は宇宙人(2026年製作の映画)

4.0

上映後に何人かの友だちとそのまま呑みにいって、わたしたちは気づけば自然とそれぞれの小中学生時代の一風変わった同級生のことを語り出していた。ひとりひとりが特定のだれかの顔を朧げに思い浮かべながら、忘れか>>続きを読む

ペリリュー ー楽園のゲルニカー(2025年製作の映画)

3.5

父親のように勇敢に戦場で死にたいと語っていた小山一等兵は足を滑らせて頭を打ち呆気なく死んだ。日本軍の勝利を信じていた仲間たちはつぎつぎと斃れていく。ペリリュー島の砂浜にはばらばらになった死体が転がり、>>続きを読む

大統領のケーキ(2025年製作の映画)

2.5

湾岸戦争が適度にわかりやすく、品よくラッピングされたにすぎない、映画祭にお誂えむきの凡作。
 20世紀にはまだ新人だったジャームッシュやカネフスキー、パナヒに賞をさずけていたカメラ・ドールだが、今年の
>>続きを読む

デッドマンズ・ワイヤー(2026年製作の映画)

3.5

ガス・ヴァン・サントはひとつ前の時代の映画作家という感じがする。2003年の『エレファント』のイメージが強烈だからか、『ドント・ウォーリー』以来の7年ぶりの長編作品も、ポスターのビジュアルからして古め>>続きを読む

プロジェクト・ヘイル・メアリー(2026年製作の映画)

2.5

隅から隅までアメリカ映画の感じがぷんぷん匂いすぎて、どこか醒めた目で見てしまった。社会のはみ出し者がじつは勇敢で情に厚く、どんな困難な状況も洒脱なユーモアで飄々と切り抜けていくという紋切り型のアメリカ>>続きを読む

ピリオン(2025年製作の映画)

4.0

わたしの心に棲む左翼は、あのトキシックな男性性に制裁を加えよ、この話をヘテロセクシュアルに置き換えたら成立しないはずだ、などとしきりに通り一辺倒の倫理を振り翳してきたが、黒光りするバイクとともに忽然と>>続きを読む

Orphan(英題)(2025年製作の映画)

3.5

過去に何度かハンガリーに暮らす友人知人から土地特有の暗さの話を聞いたことがある。卑近な例としてハンガリー人は明かるい照明を好まず、オフィスでもデスクの豆電球ひとつを灯して仕事をする人が多いのだという。>>続きを読む

センチメンタル・バリュー(2025年製作の映画)

4.0

なによりもまず主要な登場人物四人の芝居がすばらしい。『わたしは最悪』に続いて主役を張ったレナーテ・レインスヴェ、その妹、そして役柄の要請どおりひとりだけ作画がちがうエル・ファニング。なかでも特筆すべき>>続きを読む

再会(2016年製作の映画)

4.5

現代のマドリッドで繰り広げられる男女の小さな恋の物語に、定冠詞つきで「レコンキスタ」という大仰なタイトルを与えた若き映画作家の、そのユーモアが好きだと思う。いうまでも世界史の用語だが、たぶんスペイン語>>続きを読む

女は二度生まれる(1961年製作の映画)

3.5

若尾文子のもとに本妻が訪ねてくる。生前の夫から贈られた翡翠の指輪だけは返してもらえないかと直談判しに来たのだ。しかし若尾文子は頑なに翡翠の指輪など見たことも聞いたこともないと主張して彼女を追いはらう。>>続きを読む

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ(2025年製作の映画)

3.5

タンジェの旧市街の広場に堂々と構える古い映画館で観た。ちょうど数日前からラマダンがはじまって、日没からしばらくは往来から人が消えていたのに、22時からのレイトショーのためにグラン・ソッコ広場に赴くと、>>続きを読む

続三等重役(1952年製作の映画)

3.0

前作以上に日本は平和を取り戻したのだと感じさせる明るさが全体を貫く。前作から4か月後の9月公開。その夏にささっと撮ったのだろう。ミス南海を競う女たちが水着で踊るビーチで日曜日の社長と人事課長が出くわす>>続きを読む

三等重役(1952年製作の映画)

3.0

源氏鶏太の同名小説の連載開始が1951年8月。連載終了が翌年4月。その年の5月15日に「社長シリーズ」の原点となるこの映画が公開されている。じつはすでに二度目の映画化で、一本めの市川崑監督による『ラッ>>続きを読む

マスターマインド(2025年製作の映画)

4.0

映画館の外に出ると、いくつかのグループが映画の感想を口々に言いあっていた。ライカートの新作の隣のスクリーンで上映されていたジョン・ウーのむかしのアクション活劇を見ていたらしき若者たちは、大きな身振り手>>続きを読む

千石纏(1950年製作の映画)

3.0

江戸の華は火消しと相撲。昭和の華は千恵蔵と右太衛門。この映画をみながら自然と脳裏に浮かんだのは封切りのときの熱気だった。どういうわけかぼくがこれまでに観てきた50年代の日本映画のどれよりも、ずっと当時>>続きを読む

三里塚に生きる(2014年製作の映画)

3.0

ぼくは土地に対する執着がないから、砂川や三里塚で、現代だったら辺野古で、住民たちが権力に対して反旗を翻し、生活のすべてを賭して闘争に、何年も何十年にもわたって終わりの見えない闘争に身を投じる動機を、正>>続きを読む

シークレット・エージェント(2025年製作の映画)

4.5

ショットのひとつひとつに、ひとりの偉大な映画作家の思考の形跡が刻印されている。世界のほとんどの映画に、多かれ少なかれ既存の映画文法をなぞったり、テキトーに撮ったカットがあるものだけれど、160分の長尺>>続きを読む

レザレクション (仮)(2025年製作の映画)

-

ぼくは『凱里ブルース』がぜんぜんだめで、これもひとから勧められて重い腰をあげていったけど、からっきし。ぜんぜん興味がもてない。それも語られている内容というより、むしろこの「大きな物語を立ち上げようとし>>続きを読む

ラッキー・ルー(2025年製作の映画)

3.5

『Histoire de Souleymane』と『東京自転車節』と並べて、ウーバーイーツ映画小特集を組みたい。ウーバーの配達員は劇映画に向いていて、コロナ以後の新しい生活様式を象徴するひとつとして世>>続きを読む

Drifting Laurent(英題)(2025年製作の映画)

4.5

風が吹くまま、ロランはアルプスの僻地の町に逢着する。29歳、無職。仕事は長続きしたためしがない。これといってやりたいことがあるわけでもない。それでも彼はいちばん大きな夢は何かと訊かれれば、「ひとを愛し>>続きを読む

乱れる(1964年製作の映画)

4.5

いちばん最後に待ち受けている高峰秀子の顔のクロースアップは、成瀬巳喜男にとっても、高峰秀子にとっても、キャリアのなかでもっとも強度のあるショットなのではないかと思う。あの映像に接するたびに『裁かるゝジ>>続きを読む

女の歴史(1963年製作の映画)

3.5

高峰秀子と宝田明の婚姻祝いの席で、宝田明の旧友で、ひそかに高峰秀子に思いを寄せていた仲代達也は、与謝野鉄幹の古い唄をうたう。♪ 妻をめとらば才たけて / みめ麗はしくなさけある / 友を選ばば書を読み>>続きを読む

噂の娘(1935年製作の映画)

3.5

自宅の一室でレコードで軽音楽を掛けて寝そべる妹の梅園龍子のもとに、着物を身につけた姉の千葉早智子が無表情で立っている。あの無表情の末恐ろしさ。彼女の縁談話のかげで妹がその相手と逢瀬を重ねていた事実を咎>>続きを読む

コタンの口笛(1959年製作の映画)

3.0

原作は石森延男だが、成瀬巳喜男にしてはどこか鈍さを感じさせる語り口で、どちらかというと橋本忍の作品という感じがある。いかにもな抒情をさそう伊福部昭の音楽とも相性がわるい(成瀬作品に伊福部はこれが唯一か>>続きを読む

あらくれ(1957年製作の映画)

4.5

高峰秀子が自らの身を立ててゆくのに比例して、着物の懐からがま口の財布を取り出し、みずから金銭を支はらう回数が増えてゆく。しまいには森雅之の墓に供えた大金をこま遣いの男に手わたす。大正期を生き抜いた女の>>続きを読む

(1953年製作の映画)

3.5

上原謙が出刃包丁を右手に提げたまま、軒先から室内に入って、妻とその友人と二、三の言葉を交わす。わたしたちはこの錆びた包丁の不気味な存在感に、亭主の不倫の帰結として何かしらの惨劇が待ち受けているかもしれ>>続きを読む

マテリアリスト 結婚の条件(2025年製作の映画)

3.5

「わたしは人類ではじめて結婚した人たちのことを考える。狩猟と採集のあいまに恋に落ちた原始人のことを。その二人を完璧なパートナーどうしにせしめているものはなんだろう。経済状況の近さ? 政治思想の一致? >>続きを読む

リトル・シスター 秘密(2025年製作の映画)

3.0

自分にはだめだった。演出の手腕は確かなのだけれども、「ムスリムのレズビアン」という主人公の設定がどうしても人工的にこしらえられたようにしか見えなかった。同性愛の当事者からは支持されなかった『アデル、ブ>>続きを読む

The Stranger(英題)(2025年製作の映画)

2.5

『異邦人』といえばムルソーで、ムルソーといえば『異邦人』。ママンの死にはほとんど無関心で、女と海岸でいちゃついて、「太陽がまぶしかったから」アラブ人に五発のピストルを撃ち込んだムルソーの、自身の感情か>>続きを読む

Love Letters(英題)(2025年製作の映画)

4.0

友だちを待つあいだにちょうどタイミングがよかったので、なんの気なしに観にいった。観てよかった。2013年の暮れ、同性婚が認められたばかりのパリで、レズビアンのカップルが子を産むまでの半年ばかりを追った>>続きを読む

自然は君に何を語るのか(2025年製作の映画)

3.5

黒背景のまんなかに白い数字が無機質に置かれて、チャプターの開始が告げられる。たぶんフォントはArial で、映画館のスクリーンだと解像度の悪さで字がガビガビに割れているのがはっきり見えて、いわゆるルッ>>続きを読む

パリ警視庁 事件137(2025年製作の映画)

3.5

『12日の殺人』では殺人事件の被害者とその周辺の物語を扱い、警察組織にはある種の悪を担わせていたドミニク・モルは、その次作となる本作では「警察の警察官」を主人公に据え、警察組織の内側からフランス人にと>>続きを読む