順風ライフseason4

その夜は忘れないの順風ライフseason4のレビュー・感想・評価

その夜は忘れない(1962年製作の映画)
5.0
戦後17年、男性記者は広島に取材にくる。広島在住の友人に「もう17年も経ってるのに笑」「原爆ドームと資料館以外にもうなにもないよ」とイジられ、当事者に話を聞きに行くも、その日その日を生きる彼ら/彼女らは“期待するような”悲痛な思いを話さない。「このケロイド?ない方がそりゃいいけどそんなこといつまでも言ってらんないし」と笑う。とうとう友人には「広島にもっと不幸がないかって血眼になってる君の方に問題があるんじゃないか」と言われてしまう。
戦後20年程のドイツを舞台にした『顔のないヒトラーたち』でも20歳くらいの女の子が「アウシュヴィッツ?知らなーい」って言ってたけど、戦後17年の広島の女の子も「原爆知らなーい」つってた(なぜいつも女)。いやそれはマジ?って思うけど、ほんとうに、こういうムードだったんだな。もう過去のことだから前を向こうと言って、語りを抑圧する。『ひろしま』(1958)でも原爆の後遺症を訴える女の子をクラスメイトが抑圧してた。「前を向こう」とか「いつも笑顔で」とか「感謝の気持ちを忘れずに」とかほんまキモいねん💢
当事者は記者に話さない。「気にしてらんないよ」も嘘ではないだろう。でも、もちろんそれだけじゃない。6本の指で生まれた赤ん坊に会いに行くと当事者家族に激怒される。若尾文子ちゃんは広島の川に転がる石を記者に渡す。それは石に見えるし、てか実際石だけど、でも軽く握っただけでぼろぼろに崩れる。被爆した石だったのだ。サバイバーは強く生きてるように見えるし、実際強く生きてるけど、見えることだけじゃない。その時話すことがすべてじゃない。はたからみれば二転三転しているように聞こえるかもしれないけど、既存の言葉で表現するのは難しいことだし、その出来事を/自分の身体をどう解釈すればいいか苦しみながら、言葉を選択していく(言葉にできない思いを言葉に当てはめる作業は、いつもなにか大事なものを失っているようにも思う)。17年はまだそういう過程なのだ。それは死ぬまで続くのだろう。記者は“素敵な王子さま”になって、若尾文子ちゃんを救おうとする。「わたくしやっぱり行けませんわ」「君はまだ病気のことを心配してるの?そんなことはぼくの力で!」「いいえ。わたくしによく考えさせてくださいな、もっとよく考えなくちゃ」「考える?君はぼくについてこればいいんだ」「......わたしはこの思い出だけで十分なんです、幸せだったわ」
若尾文子ちゃんが考えてる途中でしょうが!!!!その人から力を奪うようなことはその人の回復にはならないっておれがいつも言ってるだろ(!?!?)

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