映画おじいさん

その口紅が憎いの映画おじいさんのレビュー・感想・評価

その口紅が憎い(1965年製作の映画)
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逆に驚くほどの地味キャスト、知らない監督…当然ナメてかかって観ていたら何から何までビンビンきてしまいました…とにかく最高!

経済雑誌の編集室で「売れない雑誌なんか刷ってないで偽ドルでも刷りましょうよ〜」とか何とかのたまう編集部員に何も答えないオーナー編集長(内田良平)。
事故寸前なその長い沈黙の後にドドーンとタイトル! この時点でノックアウトされました。

その汚い編集室の本棚の本が腐っているようだったり、桑野みゆきが勤める旅行会社事務所の障子を基調とした和洋折衷でヘンなインテリア、中二階がある洒落た彼女の部屋、デカいオーディオと散乱した文芸誌しかない内田良平の部屋、など美術さんがメチャクチャ頑張っている!

美術だけでなく映像も、結局セリフが無かった浜村純逮捕を映すTVを映すフレーム・イン・フレーム(って言うんでしたっけ?)、車の走行シーンでの二重写しの多用など、工夫というか色々とやってみようという意気込みが伝わる画作り。

桑野みゆきの部屋に入った内田良平が「ピストルを持った男がいたら大変だ…」とか言って振り向いたら彼女が銃口を向けているショットとかも最高!

夜の羽田空港のちょうど良い具合にキラキラした美しさも忘れられない。

内田良平が編集部の女の子に「鏡は持っているんだろ?口紅の色を…(←肝心なセリフなのに忘れた…)」と言って桑野みゆきの口元のアップに切り変わる編集も最高!

モノクロ映画なのに口紅の色のことを話すのも最高! モノクロ映画『吹けよ春風』でタクシーの運転手(三船敏郎)が越路吹雪と車の色は黄色がいいよねと話し合う名シーンを思い出した。

あと桑野みゆきが内田良平に何度か「あなたに賭けたのよ!」と言うのはマイ邦画ベストな『人間に賭けるな』を思い出さずにはいられなかった。

桑野みゆきがグレードアップした松嶋菜々子にみえた。小物版淡島千景という意見も。どっちにしても好きなんですけど。

内田良平はもちろん、桑野みゆきが考え込む場面で独白ナレーションを使わずに沈黙をさせて観客にも考えさせるというのを多用しているのも素晴らしかった。
それも独白ナレーション大好き!な橋本忍脚本なのに。長谷和夫、デビュー作にして大物相手に我を通したのかなと想像してしまいニヤリ。

序盤は音は静かで、行き詰まった時に内田良平が聴くヴァイオリン協奏曲が伏線になっていたり、中盤のみラテンジャズがガンガンかかっているという音楽の使い方もアクセントになっていてとても良かった。

書きとめておきたいことがあり過ぎる傑作でした。既に次観る機会が待ち遠しい!

さっき知ったのですが本作は高倉健主演の『空港の魔女』(東映1959年)のリメイク(劇場にあったプレスシートにはそんなことひとこともなかった…他社製作だからか。本作は松竹)ということで、そちらも観たい過ぎて震えております。。