糸くず

安藤組外伝 人斬り舎弟の糸くずのレビュー・感想・評価

安藤組外伝 人斬り舎弟(1974年製作の映画)
3.5
安藤組の舎弟だった花形敬(『刃牙』の花山薫のモデル、この映画での役名は日向謙)をモデルに描いた実録やくざ映画。

安藤昇本人が安藤昇の役で出演、さらに原作と企画も担っているのだけども、それはつまり安藤へのいろいろな配慮が必須となってしまうわけで、そのため主役は明らかに花形であるにも関わらず、群像劇とも一人の男の物語とも言えぬ、焦点のぼやけた、どっち付かずの映画であることは否めない。

冒頭の喧嘩で明らかになる日向謙(菅原文太)と野沢進一(梅宮辰夫)の因縁が、二人が安藤組の舎弟として再会することで復活するのかと思いきや、日向も野沢も憎悪が継続しているようには描かれず、二人の抗争は金儲けのうまい野沢への日向の嫉妬・やっかみが原因として処理される。悪く言えば、ガキの喧嘩レベルの話となっていて、大人としてどっしり構えているのは安藤昇だけなのである。

どうもバランスの悪さばかりが目についてしまうが、暴力描写だけは鮮烈で、特に日向が人斬りジム(安岡力也)の愛人の店に殴り込みをかける場面、青いネオンに照らされた文太が最高にクールで、そこだけでも観る価値がある。

同じ題材の映画に、梶間俊一監督&陣内孝則主演の『疵』がある。こちらは闇市感ゼロのセンチメンタルな映画で、荒涼とした暴力もないけども、父親としての花形の温かさがわたしは好きである。見比べてみると、面白いかもしれない。
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