とじひも

儀式のとじひものレビュー・感想・評価

儀式(1971年製作の映画)
5.0
この映画で撮られていることがらが一定の年代にのみ刺さるという理解は少し勿体ない気がする。登場人物にはそれぞれがこの世界を(誤解を恐れずに主題を、と言っても良いかもしれない)構築する部品として属性を持っている。それは鯨幕と喪服で成るこの世界に必要なもので過剰ささえ覚える、心地よい虚構の証明である。
映画の本質は異世界を描くことであると言ったのは伊藤計劃だが、本作を見てその意味を再確認できた。前述したように喪服と鯨幕から成るのは最小限でありながら逃れることのできない共同体の家という空間であり、見事な「私たちのいま/ここ」ではない異世界である。
異世界とはいえ、「この年代」に生まれなかったとはいえ、土着特有の「厭な感じ」を受けとることができる。それはひとえに徹底された映像美の働きであり、映画という虚構の力だと思う。
どこをとっても静止画のようにキマりきってる構図、カット。それらの美を用いて撮られる儀式ごとのクライマックス。通夜と初夜の混濁により浮かび上がる空虚は「何が言いたいか」のために「どのような工夫がされているか」の構造的に見事な工夫だった(その後の祖父のシーンも含め)。
だだっ広い庭で少年時代の主人公が地に耳を当てるシーン、祖父の葬儀に主人公と律子が訪れる一点透視。この映画は空白とそこにおける人物の画面の収め方が凄く気持ち良かった。「空虚さ」を表すための映像的工夫はあちこちに散らばっている。物語るための映像的配慮が大量にある。
徹底した映像美、二時間に凝縮された虚構、それらが織り成す家という異世界、僕はそれらに圧倒された。本当に気持ち良い映画だと思う。
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