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大脱走のgunner16のネタバレレビュー・内容・結末

大脱走(1963年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

【人のエネルギー】

第二次世界大戦で起きた事実をもとに多少の脚色を加えた名作。戦時中の物語ではあるが、ほとんど戦闘を描かずして男たちの戦いを描き、人の持つエネルギーを映像化しており、全く古さを感じさせない。(本レビューでは結末まで書いているので今後見ようと思ってる方はご注意ください)

物語の舞台は、第二次世界大戦中の収容所だ。これまでにも何度も脱走を試みた曲者揃いの連合国の兵士たちがドイツ軍の捕虜となり、脱走されないように特別な収容所に集められる場面から始まる。この場面で流れるのは、誰もが知っているあのテーマ曲である。大脱走というタイトルなので、もっとシリアスな雰囲気で物語が進んで行くのだと思っていたら、いきなりあのテーマ曲が流れるので「おや?この作品は何か違うぞ?」と思わせるのだ(曲自体は知っていたが、大脱走マーチという曲名だということは恥ずかしながらこの映画で初めて知った…)。オープニングのテーマ曲だけでがっちり心をつかまれたのはスター・ウォーズ以来かもしれない。

あっという間に心をつかまれた後は、大脱走、というタイトルの通り250人(!)もの脱走計画と脱走シーンが描かれるのだが、計画を着々と実行して行く脱走のプロたちの手際の良さにシビれる。統率力のあるリーダーがそれぞれの兵士に役割を与えるのだが、情報屋、調達屋、偽造屋、仕立て屋、トンネル王など、各自が息の合った連携を見せ、仕事をきっちり進めていく。最初はトンネル部隊たちが穴を這いつくばって少しずつ土を掘っていくのだが、トンネルの距離が伸びていくと線路を敷いて簡易なトロッコで脱出ルートを行き来するようになるのは特にわかりやすく進捗を示すシーンだ。脱出計画が一歩ずつ着実に、しかしテンポ良く進んでいくのは気持ちがいい。
ドイツ軍はもちろん彼らの脱走を警戒していて、収容所と外部を隔てている鉄条網に近づくと機銃掃射するほどの体制を敷いているのだが、ドイツ軍に計画を悟らせないように彼らは淡々と仕事を進める。途中、掘り進めていたトンネルの一つを発見されてしまい、精神的に限界を迎えた捕虜仲間がドイツ軍に撃ち殺されるなどのアクシデントに見舞われてもそれでも淡々と仕事を進めるのだ。同じ男として彼らの意識と仕事ぶりには尊敬の念を抱かずにはいられない。

劇中では3年以上の月日が経った頃、ついに脱走の日がやってくる。掘り続けた2本目のトンネル、誰がどう見ても捕虜には見えないパリッとしたスーツなどの衣装、細かなところまで作り込んだ偽造の身分証明書…彼らの努力と熱意を見てきた身からすると、感情移入してしまって、どうか脱走が成功して欲しいと願わずにはいられないのだが、どんなに緻密に練った計画でも綻びは生じるもので、全員の脱出はかなわない。250人中76人の脱出で打ち止めとなってしまう。せめて脱出できた兵士たちだけでも逃げきって欲しいとは思うのだが、ドイツ軍は凄まじい兵力を投入して脱走兵たちを追い詰める。ある者は電車で、ある者は飛行機で、ある者は船で、ある者はバイクで、さまざまなルートで逃走を試みるも、多くの脱走兵たちは捕まってしまい、度重なる脱走に業を煮やしたドイツ軍特別警察のゲシュタポに射殺され、大半が帰らぬ人となるのだった。一部の脱走兵たちは再び収容所に戻り、脱出計画の犠牲の大きさの意味を問う。収容所の捕虜側の責任者は言う。
「考え方次第だ」と。
運良く生き残ることができた仲間たちはそんな簡単に前向きな考えを持つことなどできず完全に意気消沈するなか、一人だけ、独房王と呼ばれた男だけは、独房での孤独に負けず、唯一の私物であるグローブとボールでずっと壁当てを続ける。これまで何度も脱走を繰り返し、その度に独房に入れられたときと同じように壁当てを続けるのだった。

この作品では、無事に脱走できた兵士たちのことはあまり描かない。脱走することを描きたいのではなく、脱走を通じて人が生み出すエネルギーを描き出している。物語を暗いものにしていたら、こうもエネルギーにあふれた物語になることはなかっただろう(振り返ってみればオープニングのテーマ曲の明るさの効果は抜群だった)。必ず脱走計画を成功させようとするエネルギーはもちろん、ドイツ軍に気付かれても逃げ切ろうとするエネルギー、そして独房王の何度でも脱走してやるというエネルギー。命を賭けて、命を燃やして一つの目標に向かう人間たちが生み出すエネルギーを本作では見事に映像化している。1960年代の映画ではあるが、これほど画面からひしひしとエネルギー、熱量が伝わってくるとは思わなかった。近年のCGを多用する映画には絶対にできない、素晴らしい作品である。

最後に本作とは直接関係がないが、大好きな「ジュラシックパーク」で恐竜のパークをつくって一般人に公開しようと計画した愛すべき狂人、ジョン・ハモンドを演じたリチャード・アッテンボローの若かりし頃の姿には感慨深いものがあった。一見ただの狂った老人なのだが、「ジュラシックパーク」では不可能と思われるような恐竜パークをつくってしまう実行力と推進力を持ち合わせ、不思議なカリスマ性を感じさせるキャラクターであった。彼がそのようなキャラクターを演じられたのは本作での経験と無関係ではあるまい。
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