【近衛はなを見る映画】
吉田松陰と、獄中で身近にいた高須久との恋愛譚です。
私は吉田松陰についてはろくに知識がなく、この映画を見て「ああ、そうだったのか」と思ったことも多かったという程度の人間ですが、彼を演じる前田倫良にはちょっと違和感を覚えました。出だしからして時代劇風ではなく、時代劇の中に現代人が紛れ込んできたみたいな印象なのです。松陰の新しさを出すためなのかな。
でも、獄中で学問をするシーンはもう少し時間をかけ、各人が幕末という、或る意味行きづまった時代をどのようにして生きていったらいいのかを論じ合うようなところまで持って行ければ良かった。それこそが吉田松陰という人物の存在理由だったはずですから。
また、それがあってこそ、高須久との恋愛も、時代の波の中で「公」と「私」の狭間で揺れ動く二人の姿が浮かび上がることによって、いっそう鮮明であると同時に複雑な相貌を持つことになったはずです。
高須久を演じる近衛はなさんは初めて見ましたけど、とても良かったなあ。最初はどこか薄汚れた、諦めを秘めた人物として登場して、吉田松陰と出会うことで徐々に変わっていく過程を見事に演じていました。最後に、水を浴びて体を清め、盛装して吉田松陰を迎えるところでは、見違えるように美しい。
そして今どきの女優には珍しく、ちょっと昔ふうの容姿というのか、繊細で脆そうな顔立ちが男心を捉えて離しません。また映画に出て欲しいですね。
ただ、最後の「好きでした、ずっとおそばにいたかった」と彼女にモノローグで言わせるのは、余計。それまでのシーンでお互いの気持ちは十二分に表現されているのですから、あとは映像だけで終わらせるべきなんですよ。この辺、監督の手腕に「?」印が付いてしまっていたと思います。
総合して60点くらいかなと思いますが、近衛はなさんが素晴らしかったので、10点オマケします。