ヤムヤム

それいけ!アンパンマン 人魚姫のなみだのヤムヤムのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

歴代のアンパンマン映画の中でもかなり大人向けの要素が多い作品だと思います。
サニーが身勝手だという意見もありますが、この作品の一番のテーマはそこにあるのではないでしょうか。テーマソング「夕日に向かって」には、劇中では流れなかった二番目の歌詞があります。
「寂しさに負けそうな時 握りこぶしを作りなさい げんこつで涙拭きなさい」
この続きは、正規の歌詞では「過ぎたことなど忘れなさい」ですが、
やなせたかし先生は「やっつけなさい 弱い心」と自分で歌っていました。
最初こそ、サニーは夢を諦めきれず、己の心に負けて呪いの髪飾りを手に取ってしまいました。危険を察知したおばばが連れ戻しに来ても、「あと一日だけ」と甘えてましたね。
しかし、最後は自分から髪飾りを外し、二度と人間には戻れないとわかっても迷うことはありませんでした。夢を諦められない自分の弱い心(幼さ)に打ち勝つサニーの姿を描きたかったのではないでしょうか。

また、「サニーは身勝手な行動をとっても何一つ謝らない」という意見もありました。確かにサニーのせいでゴロンゴラが復活してしまいましたが、この作品でやなせたかし先生が一番強調したかったことが「弱い心に打ち勝つこと」ならば、むしろ謝罪の演出は邪魔になります。サニーが謝罪する場面を描いてしまえばそれだけで、テーマが「反省」「贖罪」になってしまうからです。「みんなに迷惑をかけるならば、無駄な夢は最初から諦めればよかった」そんなメッセージの映画になってしまいます。
逆に、「迷惑をかけたら謝らなければならない」を伝えたいなら、アンパンマンの制作陣が描かないわけがないのです。前作の『勇気の花がひらくとき』では、きらら姫が自分の罪を認めるシーンをきちんと描いていますしね。

サニーは笑顔でいるよりも物憂げな表情のシーンが印象強かったです。アンパンマンたちも帰る時は笑顔ではありませんでした。事が解決しても、この映画は決してハッピーエンドでは終わっていないのです。
この映画のテーマは「時に夢を諦めればならないこともある。涙を呑んで自分の心に打ち勝たねばならないこともある。人生とはそういうものだ」。そんなメッセージが込められているのではないでしょうか。

歴代のアンパンマン映画は絶望の中に希望を見出す、そんな映画が多いです。もちろんこれは大切なテーマですし、アンパンマン作品の根本にあるものです。対し、本作は「子どもたちがこれから成長し、生きていく上で、希望を見出せないこともある」ということを伝えてくれる貴重な作品です。何より、やなせたかし先生が監修してますので、決して間違ったメッセージが込められていることはないと思います。

人生は希望ばかりで満ち溢れていないことは、戦争を経験しているやなせ先生が一番よく知っている……この映画を見て、思わずそんなことを考えてしまいました。
あくまで個人的な見解ですので、正解だとは思っていませんが、そうであればいいな、と強く思います。自分の中では一番好きなアンパンマン映画です。
ヤムヤム

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