おかだ

ナイト・オン・ザ・プラネットのおかだのレビュー・感想・評価

4.2
ジャームッシュの真髄、街映し横移動オムニバス


これまたジムジャームッシュの代表作のひとつ「ナイトオンザプラネット」。
同時刻、5つの場所で起こる、いや何も起きない、ただタクシーでの運転手と乗客のやりとりをダラダラと見せてくれる今作。
これといって共通点は無く、人物が絡み合うわけでもない、つまり群像劇ではない純然たるオムニバス。

ジムジャームッシュの作品に共通する要素である、フラフラとしたロードムービー感とその帰着。それから街の描写に特徴的な横移動。
それらが分かりやすく詰まった、これまたありがたい作品に仕上がっておりました。


さて物語は、ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ローマ・ヘルシンキ、の5都市でそれぞれ真夜中のタクシー車内を舞台とした小噺になっています。

物語というほどのものではないけれど、とりとめもない会話を交わしながら、夜中の静かな街の様子を贅沢に映してくれる非常にありがたい仕様。


物語も情景も寒々としたヘルシンキ、ブラックコメディ色全開で少しやかましいローマ、やけに道徳色が強めのパリ。
どれも良かったけれど、やっぱり好きなのはロサンゼルス編とニューヨーク編。

ロサンゼルス編のドライバー、レオンのナタリーポートマンのようなカッコいい少女が良い。繰り返されるタバコの描写も、ここのパートが一番しっくりきました。

それからやはりニューヨーク。ここはさすがというか、街の情景も特別良くて、めちゃくちゃ行ってみたくなりました。


運転手がフラフラと彷徨するさま、乗客と移動するロードムービー感、そして乗客の住宅に到着するという帰着と再び彷徨する運転手。
この一連がリズムとなって5度繰り返されるシンプルな構成はいかにもジムジャームッシュであるし、散歩描写なんかによく見られる横移動の構図は今作では車中からの視点の高速verでも心地よい。


また、5つの小噺は共通点のない純然たるオムニバスであるとしたが、強いて共通点というか、テーマ的なところに言及するとすれば、それは気づきでしょうか。
特にパリ編では文字通り盲目の女性が登場することで露骨になるところであるが、当たり前のようにあるモノ、まさに身近で見えていないようなものの価値を再発見するというような、非常に童話的なメッセージ性。

ただしあくまでもそんなテーマやメッセージ性で訴求するような、背筋を張って見るタイプの作品ではもちろんないので、その辺りはまあいいかなと思いました。


てなわけで、夜中のタクシーってなんか良いよなみたいな感覚。あれが分かる人は特に、分からない人でも夜のNYの描写とかやっぱりめちゃくちゃ素敵なんで、オススメです。
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