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ファイト・クラブのatmyownpaceのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
4.0

スコア意味なしメモ用

●概要
社会に殺されていたサラリーマンが「自分」を取り戻すまでの話。

●感想
十数年ぶりに再鑑賞。この映画を端的にいうと、デヴィッド・フィンチャー流 資本主義へのアンチテーゼであり、メメント・モリを表現している。

日本も年々格差社会がより深刻な社会問題になっているけれど、アメリカはその比にならないくらいの超競争社会なわけで。街には無気力に生きる低所得者、その成れの果てであるアル中や薬中、ホームレスに犯罪が溢れている。2023年現在、アメリカの人口約40%が年収200万円以下らしい。

この映画が制作されたのは1999年、この年印象に残る事件といえば「コロンバイン高校銃乱射事件」がある。この事件もある意味、資本主義の競争社会が生んだ悲劇と言えるだろう。社会に出るまえの学生時代から「スクールカースト」と呼ばれる階級社会が生まれ、ほとんどの人がそれに踊らされる。他人と比べて自分を卑下し、満たされることのない虚像の理想を追い続ける。

主人公はそんな時代のアメリカで見事に思考停止し、社会の歯車の一部として機械のように生きている。現代病である不眠症を抱えながら、無意識に刷り込まれた広告に踊らされ高級家具を買い漁り、なんとか自分を保っていた。そんな人生の救済処置としてタイラーという別人格が生まれる。

本当にこういう人いっぱいいるよ、もちろん日本にも。完全なマジョリティーだしこういう人たちがいるからお金が回って社会が成り立っている。資本主義はよくできたシステムだし、わかりやすくて良い面もある。でも、その歯車にもなれない、なるチャンスすらない人たちはホームレスや犯罪者になり負のループから抜け出せない。

また、同じ年に制作された好きな映画で「アメリカン・ビューティー」がある。正しいと洗脳された社会のレールから外れ、自分の心に従い行動する主人公や、ゲイである自分を隠し否定しながら生きてきた元軍人など、マイノリティーな存在を描くという点でファイトクラブと共通している。もうすぐ宮崎駿の「君たちはどう生きるか」も公開予定だが、この時代もまた社会や家庭に対する不満を抱え、本来の自分とは何か、自分らしく生きるとはどういうことなのかと思い悩む人で溢れていたのだろう。そういう自分もまた答えが出ないまま、マイノリティーとして悶々とした毎日を生きる一人でもある。

最後に、EDで流れるPixies「Where Is My Mind?」がこの映画にとても合っていた。劇中、執拗に観客へ話しかける主人公とタイラー。曲の冒頭、「ストップ」という声から始まるこの曲が、ファイトクラブのメッセージと受け取った。

「立ち止まってよく考えろ、おまえの心はどこだ?」