一平

お早ようの一平のレビュー・感想・評価

お早よう(1959年製作の映画)
5.0
終盤の駅のホームでのやりとりがとても好き。
「今日はどちらまで?」
「ちょいと西銀座まで」
「じゃあご一緒に」
「いい天気ですね」
「本当にいいお天気」
「このぶんじゃ二、三日続きそうですね」
「そうね、続きそうですわね」
「あ、あの雲面白い形ですね」
「本当に面白い形」
「あ、あの雲何かに似てますね」
「何かに似てますね」
「いい天気ですね」
「本当にいいお天気」

このやりとりは言葉の反復を繰り返すのみで、ここから得られたのは彼が西銀座まで行くという情報だけ。
アイ・ラブ・ユーを連発する勇に対し、翻訳家のお兄さんは愛しているということを伝えることができていない。しかし、劇中で勇や実が指摘する「無駄なこと」のせいで想いを伝えられていないわけではない。
むしろ「無駄」なやりとりのおかげで、本音を伝えられずともこのあたたかい空間が共有できている。
一切の無駄がない世界を想像してみると、どこか寂しくて息が詰まってしまいそうになる。
挨拶や社交辞令といった「無駄なこと」こそが実際は人と人とを繋ぐ潤滑油になっていて、普段は忘れがちだけど無駄なことって実際はそんなに無駄でもなかったりするのかなと思った。
一平

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