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美しき諍い女(いさかいめ)のKYのレビュー・感想・評価

4.3
ジャック・リヴェット監督作。
フランス映画。

バルザック『知られざる傑作』が原作。画家は自らの最高傑作“美しき諍い女”を描こうと妻をモデルにするが完成直前に破棄。そして10年後。彼の前に若いモデル、マリアンヌが現れた事から再び仕上げにとりかかるが…。

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4時間ぐらいある。劇場で見なくて良かった。。情報量が多い映画じゃなくて作品内の流れてる時間がゆったりしてる映画なので、むしろ狭い部屋で無理矢理プロジェクターに投影してダラダラ見てる自分の視聴スタイルにドンピシャにハマった。

前半部2時間は画家がマリアンヌと出会い美しき諍い女を描くことになるまでが1時間。絵を描き始め、やがて画家がモデルの内面を見ようとポーズに対して支配的になっていくまでが1時間だが、導入が良い。

いい女連れて石造りの画家の家を訪ねるシチュエーションのリゾート感はもちろん、登場人物紹介としてもかなり上手く人物のヨリはほとんど撮らないで関係性や会話を通してきちんとキャラクターを描かれてる。

何十年も個展をせずとも優雅な生活ができる画家の幸せな生活はもちろん、内面剥き出しなマリアンヌのキュートさとアーティストゆえ理解不能な言動の多い画家の理解し得ない関係性がかなり期待を募らせられる。

絵を描き始めてからは4時間尺の理由が明らかになる。キャンバスに描く前にノートに練習的に描く過程をまでひたすら見せる。長い。でも俳優が画家の映画で最も逃げたくなる場面を丁寧に撮るのはある意味すごい。

考えてみればアーティストが作品を作り上げる際、最も面白いのは過程だ。そこに画家とヌード姿のモデルとのやりとりの緊張感も相まって見応えあった。

後半部は安定していた周囲の登場人物の感情が絵を完成させるという過程で徐々に不安定になっていくストーリーそのものが表出していく。創作が作り手側の周囲を精神を不安定にささるというリアルがそこに描かれる。だがちょっと腑に落ちない点も。

いや、完成した絵が見れないのは別に良い。画家が描いてるとはいえ、映画用に作られた世紀の傑作が絵の力でストーリーに説得力を与えられるとは思わないし。むしろマリアンヌの彼氏の心情が描かれる所にイマイチ乗れなかったというか。

ジェーン・バーキン演じる妻が創作の影響で不安定になる過程は見てて乗れたんだけど、彼氏の心情がどうでも良いと感じてしまった。それを妹まで持ち出して丁寧に描いてももはや興味が持てなかった。ある意味マリアンヌになってた。

その意味で後半部の登場人物の心情が露呈する芝居よりも、前半部の創作の過程の緊張感そのものの方が面白かった。むしろそれをいつまでも見ていたいとすら思わされた。だから自分は映画内で完成した絵が見れないのはアリ派だ。
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