近本光司

銀河の近本光司のレビュー・感想・評価

銀河(1969年製作の映画)
3.5
南仏からサンティアゴ・デ・コンポステラをめざす巡礼の道をゆく二人組が生きる六十年代の暮れの現代を中心に、流謫の旅に出ているイエス・キリストとその取り巻きや、中世から近代に至るまでの人々など、さまざまな時代の人物が見境なく断片的に並列される。その混淆のなかで、キリスト教思想史における主要な問題系が次々と人びとのあいだで語られる。カトリックの三位一体、イエスの人神論争、自由意志や欲望の存否、聖母マリアの奇蹟、悪魔信仰。ようやく二人が聖地に足を踏み入れようとするとき、デルフィーヌ・セイリグ扮する娼婦がたちどころに現れ、男たちはその誘惑に負けてしまう。ブニュエルが用意したこの結末は、宗教思想史の厚みじたいが動物的な欲望によって一挙に無に帰してしまうような、きわめて瀆神的なものだった。
 主人公が少女たちの演説を原っぱで聞いているシーンで、脈絡もなく神父がファシストたちに銃殺されるショットが挿入される。もとのシーンにもどって、隣に座っていた男が「なにか銃撃の音が聞こえなかったか」と問うと、主人公は「ああ、おれの頭のなかで鳴ってただけだから気にするな」と答える。映画にはこんなことができてしまうのかと慄然とした。「映画は奇蹟を生み出す機械だ」と語ったというブニュエルの面目躍如。