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犬神家の一族のキューブのレビュー・感想・評価

犬神家の一族(1976年製作の映画)
4.0
映画を見たことがない人間でも知っているだろう、スケキヨの仮面や水面から突き出た死体の両足など、強烈なビジュアルセンスをあますことなく発揮している。予告編でも「新しい映像の創造」と謳われているが、新しいかはともかくとして、随所に美意識の感じられる映像の作りは見られる。上げたらきりがないが、特に私の目を引いたのは佐兵衛の遺影に向かって座る松子を映したシーンだ。佐兵衛という人間の狂気を、本人はただの遺影にもかかわらず、引きずり込まれるようなカメラワークで表現していた。
 ロケーションもいい。戦後すぐの那須を再現し、湖畔の風景や、今となっては見かけない独特の和洋折衷の様式もまた時代を良い意味で感じさせてくれる。市川崑自身の手によるリメイク版でも、オープニングで金田一耕助が歩く場面は今作の風景をそのままCG処理を施し合成しているというのだから、その影響がうかがえる。

 さて、上に挙げたようにこの映画はどうしても映像面に目が行きがちだが、実際のところ物語自体を引っ張っているのはキャラクターの妙である。自分の家族の利益だけをとことん追求する犬神家の面々や、序盤でしか登場しないのに強烈な印象を残す佐兵衛(三國連太郎が演じているから当然とも言えるが)、そして何と言っても主役の金田一耕助は外せない。
 一見すると彼がいなくても映画が成立するような気がするが、ストーリーのトーンや緩急をつけているのは彼の仕事だ。石坂浩二による、頼りなさげな風貌でいながら時折鋭い眼光を見せる金田一耕助は、コメディリリーフでもありまとめ役でもあるという難役を見事にこなしている。事実、この映画は恐怖描写のみならず、喜劇的なスタイルもまた魅力の一つとなっているのだ。

 しかし時代の流れを逆らうことはできないようで、いただけない部分も多分にある。その一つが時折挿入される風変わりなカットだ。なぜかスチール写真を用いたコマ割りになったり、コントラストの激しいモノトーンの回想場面など、鮮烈な映像美というよりは単にくどい場面も多い。
 プロットにいまいち整合性が感じられないのもミステリーとしては褒められたものではない。ある登場人物の行動原理や、そのバックグラウンドなどが観客には理解しがたいものであった。

 とはいえ、私自身、最後の展開には驚かされてしまった。「スクリーム」などでも使用された脚本の捻りを70年代に行っていた点は驚嘆せざるをえない。日本人で知らないものはいないであろう「犬神家の一族」は、エンターテイメント性と上質な芸術性を見事に組み合わせた真の大衆映画と言える。
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