ビョーキノオタク

ソナチネのビョーキノオタクのレビュー・感想・評価

ソナチネ(1993年製作の映画)
4.0
「あんまり死ぬのを怖がっちゃうとな、死にたくなっちゃうんだよ」

劇中で北野武が言うセリフ。これにすべてが詰まっている作品のような気がする。

作品全体に、北野武監督の「死生観」が出ている。
映画冒頭で、所属している組のお偉いさんと一悶着あり、沖縄に左遷されることになり「なんか疲れちゃったな。ヤクザ辞めちまうか」と冗談交じりに言うセリフは、本心。
中盤のロシアンルーレットで挿入されるイメージは、願望。
本当は死にたいのに、死ぬ勇気がない。
死に心が向きかけているが、ギリギリのところで生に足を踏みとどめている。

沖縄に左遷されてからの武は、やることがなく、部下たちと落とし穴を掘ってみたりロケット花火で戦争ごっこをしたり、大人の「めんどくささ」から解放されて、童心に戻ったかのような振舞いだった。

冒頭で、過去の北海道の抗争で部下が3人死んだことを悔やんでいたはずの彼だったが、ここでも彼は「遊び」のはずの戦争ごっこで実弾を発砲したり、ロシアンルーレットに実弾を1発だけ込めるように見せて部下たちに遊びを強要するなど、他人の死にも感情が動かなくなってきている。


彼のすごいところは、彼をはめた張本人に報復を与えただけで終わらせればいいものを、自分の所属していた組にまで報復を与えること。
自分が余生を全うすることを望むなら、わざわざ自分の元飼い主に手を出したりはしない。
これも、彼が本当は死にたがっている証拠。

劇中で「最初に人殺したのは誰?」と聞かれた武が、「親父。やらせてくれなかったから」と笑いながら答えるシーンがあったが、
男の子にとって父親は(意識的だろうが無意識だろうが)越えなければいけない存在である。

だから、元は自分の飼い主である組だろうが、気に入らなくなったから噛みつくという選択肢を選んだのだろう。

そこで死んでも良かったはずなのに、また死ねなかった。
沖縄で出会った少女と余生を過ごす選択肢もあったが、彼はそうしなかった。
おっぱいまろびだして見せてくれた少女との性(生)よりも死を選んでしまった。

何作か北野武の映画は見たことあるけど、彼ほど成功しているように見える人が、こんな闇の深い、心の気持ち悪さ・美しさを見てきた人だとは思ってなかった。