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ラースと、その彼女の豆のネタバレレビュー・内容・結末

ラースと、その彼女(2007年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

長いこと独り身のラースを心配し、兄夫婦は繰り返し食事に誘っているが、毎度断られてしまう。そんなある日、なんとラースの方からパートナーができたことを報告にやってくる。大喜びする兄夫婦の前にラースが連れてきたのはビアンカという女性の人形、いわゆるラブドールで…というお話。

物語冒頭の一件から、ラースは「ビアンカの治療」という名目で、精神科に連れていかれることとなる。そこで彼は「妄想状態にある」という診断を彼の知らないところで受けることとなるのだ。

「妄想」に対して寄り添うことは、言葉で言うほど簡単なものではないと思う。
ラースの周囲の人々も、最初は戸惑いながら、壊れ物を触るように接していく。しかし少しずつ、「可哀想なラース」から「それも含めてラース」という認識に変わっていったのではないだろうか。

印象深いシーンが二つある。
一つは、兄夫婦と女医が話す場面。

「妄想はいつまで?」
「彼が必要とする限り」

妄想、つまりビアンカは、今の彼に必要な存在だと女医は言う。精神症状、悪影響のあるものというイメージの強い妄想。兄はピンと来ない表情をしているが、映画を観ている我々のイメージはここで少し変化する。

もう一つは後半、ビアンカが自分の思い通りにならず「みんな僕のことなんて気にもかけない」と不貞腐れるラースを兄妻が叱責する場面。
これまでは彼に合わせ接してきてくれた人からの初めての厳しい言葉に、彼は驚き閉口する。兄妻はその時も、ビアンカの存在を否定することは一切言わない。

「自分一人では何もできない大人の女性をここまでサポートするのは、みんなあなたのため。あなたが好きだから。気にもかけないなんてふざけないで!」

彼を大切に思う故の怒りの言葉だ。そして同時に、彼の心の中で生きているビアンカのことも一人の人として尊重してくれた瞬間だった。

町の人たちもまた、それぞれのやりかたで彼に寄り添い、尊重してくれる。けれど彼の意見が全て通るわけではなく、町の人たちが勝手に予定を入れてビアンカを連れていったりする。これって結構大事なことなのかもしれない。
ラースが好きで、彼を助けたいから助ける。お節介なこともするし、ビアンカと一緒に過ごせずラースが不貞腐れたら「大きな子どもみたい!」と呆れたりもする。

ラースにとっては大変なこともあるだろうけど、こういう人たちに囲まれて、ラースはもう孤独にならない。孤独ではなくなったから、ラースはビアンカの死を受け入れることができたのだと思う。
ビアンカとの出会いがなければ、ラースは孤独のまま人生をひっそりと歩んでいくしかなかったはずだ。彼女はラースを救うためにやって来てくれたんだなと思ったら、涙が止まらなかった。

コメディかと思って観たら、とんでもない作品だった。この作品に出会えてよかった。
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