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阿賀に生きるのHALのレビュー・感想・評価

阿賀に生きる(1992年製作の映画)
5.0
国立映画アーカイブで鑑賞。歴史に残すべき一本だと思った。これタイトル知ってるな……有名な映画だろうくらいの気持ちで観に行ったが、本当に観れてよかった。今年の頭に観た『水俣曼荼羅』もすさまじい傑作だったのだが、原一男監督の頭の片隅にはこの傑作が常にあったのではないか。「新潟水俣病」に迫った映画ではあるのだが、もう冒頭の監督たちとおばあちゃんたちが山深くの川沿いの畑で雨の中農作業をしている部分で、これはもう監督も観客も「阿賀」の神秘、それが決して神秘ではなく実在する日本の風景というのが凄まじい奇跡に感じる神秘に呑みこまれてしまったのだと思う。圧倒的な体験だった。家に帰ってニュープリント版の予告編をYouTubeで見つけてまた感動した。いかにも農協にいそうな真面目そうなおじさんが見晴らしのいい川に立って吹いてくる風の名前を一つずつ紹介する場面とか、舟職人のおじいちゃんのところに別のおじさんが何度も弟子入りしようとする話とか、ずっとやめていたおじいちゃんが漁協の若い連中に囲まれて鮭のカギ漁を再び試みる話とか、ほんとに目を疑うような美しさと豊穣に驚く。ただ、そうした人々が川と共に生きるがゆえに新潟水俣病の被害にあってしまったこと、それをまた高齢の人々が受け入れて生きようとしているようにすら見えてしまうのではないか、その点をずっと監督は逡巡していたのではないかと邪推してしまう。そのように見えてしまったら、それはカメラの敗北だし、また映画がそうした暴力に加担することになってしまう。その賭けのような勝負に、打ち勝っていると自分は思う。監督の苦しみや切実な阿賀の人々への思いがそこにたしかに映し出されている。終盤冬景色の中で集会所の女性たちが午睡している美しい場面そこで終わらずにあえて不思議な監督と彼らの「ちょっとだけカメラのほう向いてください」「もういいかい?」「オッケーです!」「ありがとうございました~」というやり取りで締められるのは、そういう二者のつながりの結実としてこの映画があるということなのだ、そう思いたい。自分の大好きな一本『神聖なる一族24人の娘たち』もまたそうした虚実の間を行く映画だったが、そうした不思議な場所が日本にも確かにあったのだと。
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