Rita

愛人ジュリエットのRitaのレビュー・感想・評価

愛人ジュリエット(1950年製作の映画)
4.1
"忘却の村"へ。

ある出来事から投獄されてしまった青年ミシェル。牢獄の中で恋人であるジュリエットを想い、不思議な夢を見る。夢の中で彼は、記憶を持たない人々が暮らす"忘却の村"に迷いこみ、ジュリエットを探す。

夢の中で物語が進んでいく不思議な作品でした。純粋無垢な男の罪。儚くも幻想的、夢の中で愛する人を探す男。記憶を宝物のように自分のものにしてしまう人たち。不条理でもあり曖昧な記憶は夢そのもの。

感傷的な音楽、惹き込まれる夢の世界。思わずうっとりしてしまう素敵なお話でした。夢というのは暗いものもあれば素晴らしいものも見せてくれる。現実は辛いことばかり、夢の中に逃避行できたらなんて何度も考えたことがある。しかし、本作で感じたのは現実に失望した姿。再び夢の鍵を開けてしまった瞬間、現実から目を背けることの恐さを覚えた。夢か現実、どちらかを選択するとなると即答できそうでできない。幸せや愛の在り方なんて分からない。

作品の結末は、彼にとってのハッピーエンドであって、現実は辛いものとして残る。夢から覚める前に彼がジュリエットに、花飾り、テルトル広場、ふたりが出逢った日の話をするシーンが印象深いです。ラストに忘却の村の光景を撮したショットが良い。夢を扱った素晴らしい傑作。青ひげ公が現実ではジュリエットの雇主になっているのは面白かった。

ジョルジュ・ヌヴーの戯曲「ジュリエット或は夢の鍵」を映画化。邦題はそのままがよかったのではないかと思う。悲愴、哲学を感じる美しいロマンス。ミシェルを演じるジェラール・フィリップの美しい瞳と表情に心打たれる。
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