向田邦子さんが直木賞を受賞された際に、確か、選考委員の先生のどなたかが向田さんを評して、
「あなたの欠点は、(文章が)上手過ぎることです」
という賛辞を寄せているのを読んだことがあります。それを十分に堪能する鑑賞体験をすべく、以下の順番で本作に接しました。
(1)小説 (文春文庫)
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(2)森田芳光監督の映画(本作)
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(3)NHKドラマ版(VHSビデオ全4巻)
ちなみに実際に制作された時系列で並べると
(3)NHKドラマ版
1979年1月および1980年1月に放映
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(1)小説 (文春文庫)1999年発行
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(2)森田芳光監督の映画(本作)2003年11月公開
となりますから、小説版の(1)は、向田邦子による脚本のノベライズという位置づけです。
この脚本のノベライズ版小説を実際に書いたのは、向田邦子さんご自身ではないとのことですが、NHKドラマを観るとこのノベライズ小説は、かなり忠実に脚本を再現していますので、向田ドラマを十分に(、かつ恐らく短時間に)味わえます。
森田芳光監督の本作は、もともとの向田作品から若干変更されていましたが、それほど気にならないレベルでした。
やはり、と言っては何ですけど、元祖NHKドラマがいいです。三女の滝子(いしだあゆみ)と探偵の彼氏(宇崎竜童)の距離が徐々に恋仲になっていく様子がいじらしい。
元祖NHK版と、森田芳光監督の映画版の両方を観ると、元祖では八千草薫さんが次女巻子役だったのが、森田監督版では四姉妹の母親役となっているのも味わい深いです。
また、森田監督版での楽しみは、長女綱子を大竹しのぶが演じ、この綱子と不倫愛の関係にある男の妻を、桃井かおりが演じているところ。大竹vs桃井のバトル。夢の競演って感じでこれまたイイ。
それと、巻子(黒木瞳)が、夫の浮気相手と疑っている女性社員役の木村佳乃もハマってます。いかにも上司と何かありそうな雰囲気を漂わせておりますね。
お話の冒頭、四姉妹が巻子夫婦の家に集まって、正月に供えた鏡餅を割って揚げ餅にします。それで、父親に隠し子がいるらしいというシリアスな話を滝子がしているのに、姉妹で鏡餅のおかきをポリポリやるので、どこかコミカルな雰囲気になる。こういうのが向田邦子の芸ですよね。上手いよなあ。
元祖NHK版では挿入歌にYMOの「ライディーン」(だったか、テクノポリスだったか)が流れて時代を感じさせます。ケータイもインターネットもない時代。もちろん、Facebookもツイッターもない。こんなに鋭く家族を描く脚本家が今の時代の日本を見たならば、どんな話を書くのだろうかと想像せずにはいられません。
2015/12月初・中旬に鑑賞
補足
各メディアのリソース一覧です。
(1)小説 (文春文庫)
http://amzn.to/1PFKrXm
(2)森田芳光監督の映画(本作)
http://bit.ly/1muAzGL
(3)NHKドラマ版
VHSビデオ全4巻のうち第1巻
http://amzn.to/1NZYIxw
NHKオンデマンド
http://bit.ly/1NZZ9b7
脚本自体も以下で読めるようです。
阿修羅のごとく―向田邦子シナリオ集〈2〉 (岩波現代文庫)
http://amzn.to/1JSJmHc
追伸
前略。皆様、あけましておめでとうございます。一ヶ月半ほどFilmarksから遠ざかっておりました。
向田邦子の文章が上手過ぎるのと同様に、Filmarksの(私にとっての)欠点は、楽し過ぎることです。楽し過ぎるゆえに、ついつい長い時間を費やしてしまいがちなのですが、映画を観たり本を読んだりするのをインプットとすれば、それらを糧にアウトプットしなければならない課題があって、それにここ最近は取り組んでおります。
この一ヶ月半、他にもいい映画を沢山観ましたが、それについてはいつかまた書きたいと思ってます。
本年が皆様にとって良い一年でありますように。草々
2016年元旦