朧気sumire

十二人の怒れる男の朧気sumireのレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
5.0
『反論のヒエラルキーを擬人化』
実父殺害の容疑で裁判にかけられた少年。担当の陪審員12人のうち1人だけが少年の無罪を主張した。

制作陣の類まれなる実力に恐怖さえ感じた作品。
良質な脚本と俳優があれば場所なんて関係ないと言わんばかりに作中で出てくるセットは評議室のみ。
しかしこの狭い場所で展開される緊迫した討論には、無関係な私(視聴者)も手に汗を握り時間を忘れて見入ってしまった。
討論とは何か?それを考えさせられる作品。
密室劇の金字塔と言われるだけのことはある。

そして反論のヒエラルキーを擬人化させたような陪審員達も魅力的。
2008年、プログラマーであるポール・グレアムが反論にも質の良し悪しがあるとして「反論ヒエラルキー」なる話を出してる。
反論にもレベルがあって、低ければ低いほど聞くに値しない"悪い反論"とのこと。
評議員の12人は下記のいずれかのレベルに属すると思う。

レベル1.単なる罵倒
バカなど人格攻撃にもなっていない悪口。
レベル2.人格攻撃
人種や性別、性格など内容の主旨ではなく発言者そのものを批判。
レベル3.論調批判
内容ではなく発言者の言い方への批判。
レベル4.抗論
反論する根拠はあるが論旨がズレている。
レベル5.局所的な論破
論破出来てはいるが、元の発言の主旨を論破しきれていない。
レベル6.主旨の論破
相手の発言の主旨を理解し、明確な根拠をもって論破する。

最初に無罪を主張した8番の男性は当然レベル6。
理知的な姿勢を崩さずに説明して他の陪審員達を無罪派に変えていく8番の男性が本当にかっこいい。同じ人間として憧れる……!最高にかっこいいヒーローだよ8番!
また議論の邪魔にしかならないレベル2の主張をくり返す陪審員をメンバーから外すシーンも的確な対応で印象的に映った。

白熱した言論バトル。
手に汗握る討論の背後で重くのしかかる責任。
ラストで陪審員○番が流す涙。
一度は見ておいて損はない名作です。

ニキータ・ミハルコフ監督によるリメイク版「12人の怒れる男」も社会派映画に姿を変えた傑作でオススメ。
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