だいき

カールじいさんの空飛ぶ家のだいきのレビュー・感想・評価

カールじいさんの空飛ぶ家(2009年製作の映画)
4.5
風船に夢を乗せて。

2010年アカデミー賞作曲賞、長編アニメ映画賞受賞作品。
ピクサー・アニメーション作品10作目。
嘗てヘリウム風船のゴンドラでアメリカ目指す冒険の旅に出て、そのまま行方不明になってしまったおじさんがいた。
アメリカへの太平洋横断旅行も、周囲から「無謀だ」とさんざん止められていたにも関わらず、高度実験の最中に「では行って来ます」と勝手に旅立ち、結局その後、海の上空で姿が確認されたものの雲の中に入り、それっきり現在に至るも行方不明のまま。
そんなファンタジーのような出来事がピクサーに登場。
※上記の風船おじさんとは全く関係ありません。

本作は歴代ピクサー映画の中で最も荒唐無稽な作品ではないだろうか。
夜中おもちゃたちが勝手に動き回ったり、子どもたちの悲鳴を回収してエネルギーにしているモンスターの会社があったり、生きた車たちの世界があったりと過去の映画の方が圧倒的に「荒唐無稽」と思われるだろうが、それは人間が知らないだけで、そういう世界が存在しているのかも知れないと言う、いわば「サンタクロースを信じますか?」といった種類の話で、少なくとも映画の中の登場人物たちにとってはリアルな世界になる。
本作を観て感じたのは3D映画のため、CGが凄いということ。
家、風船、質感はまるで本物のように映り、映画館で観たらさぞかし迫力があっただろう。

また、魅力的なシーンはなんと言っても冒頭。
カール少年とエリー少女が出会い、歳を重ね、別れるまでをサイレント映画の手法を使い音楽と共に一気に描き切る。
このシーンの素晴らしいところはその描写力や表現力、普遍的な内容はもちろんだが、これを冒頭に持ってくるという勇気。
言ってしまえば、この作品の中でももっとも山場になるシーンであり、それを先に消化してしまうというのはかなりリスキーな選択である。
敢えて最初に持ってきている理由はアニメの主人公としておじいさんに感情移入することのハードルを下げるためであり、特にこのじいさんは偏屈で愛想もないので決して一目見て魅力的とは言えない。
さらに、物語は冒頭の感動的な空気を最後に冒険活劇へとスイッチを切り替える。
これぞピクサーと魘される一作であった。
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