2023-180
退屈な日々を送るレスター。昔は幸せだったが、今は妻や娘と上手くいかず取るに足らない人生を送っていた。ある日レスターは生き方を変え、自由を取り戻す。しかし、それには代償が伴うのだった。
ケヴィン・スペイシーの演技が光る秀作。コメディ調だが闇を感じる作品。
“見栄や虚勢で取り繕った姿ではなく、ありのままが美しい”がテーマとなっている。
ネタバレあり↓
登場人物はみんな秘密を持っている。
レスターやキャロリンは幸せな夫婦を演じていて、隣人のリッキーは麻薬の売人をしていて、彼の父親であるフランクは自身がゲイであることを隠していて、娘の親友アンジェラは自分が処女だと隠していて、ジェーンは男たちにモテる美しいアンジェラの親友であるというステータスで虚勢を張っている。
しかし、その嘘の皮は剥がれ秘密が明らかとなり、“ありのまま”を晒すこととなる。
レスターは自分を押し殺してやり過ごしていた冴えない日々から脱却し、自由奔放に振る舞うようになってからは別人のように生き生きとしている。
レスターは娘ジェーンの親友アンジェラに恋して夢中になる。ジェーンは、パパと寝るなと念を押す。しかしチャンスが来てもアンジェラが処女だと知るとレスターは手を出すのをやめる。
レスターがアンジェラが作りあげた「経験豊富な女」という虚像に惹かれ性的に見ていた彼女の“ありのまま”を知り、まだ娘と同じ16歳の子供なのだと気付き目を覚ました瞬間である。
そしてリッキーは隣人を盗撮したりバイト先で麻薬をやるというクレイジーっぷりだが、それがリッキーの“ありのまま”の姿。他の登場人物たちが自分を偽る中で唯一素を出して生きる人間。
フランクが、リッキーとレスターが売春行為をしていると勘違いして豪雨の中ガレージを訪ねるシーンが印象的だなぁ。フランクがいい表情するんだよな。
伏線は確かにあったけど分かりにくい(笑)息子が「僕だってゲイを見ると吐くほどムカつきます」と言ったシーン、筋トレするレスターのテープを見るシーン、ガレージで妻の浮気を気にしてないという話をするシーン。よく考えたら「同性愛者であることを隠さないなんて、とんだ恥知らずだ」「同性愛は規律に反する」とは言ってるものの、「同性愛なんて気持ち悪い」などは言ってなかった。全ての伏線が絶妙。
レスターが誰に殺されてもおかしくなかったあの不穏な雰囲気はすごい。どうやって死ぬのか、結末が来るのがワクワクするような、でもドキドキするような不穏な雰囲気が後半レスターが死ぬまで漂っている。フランクはゲイだと知られたから殺したのかな。
レスターは死の間際に「ありのままの姿に美しさと幸福を感じた時、リラックスして感情を解き放つと、自分の人生の全てに感謝できる」という事に気づく。気付いたのが死の間際というのが何とも言えない皮肉である。
アメリカン・ビューティーはキャロリンが庭で育てているバラの品種名らしい。同時に、アメリカン・サイコでもあったように、虚勢を張って自分を偽っている人々とそんなアメリカ社会を皮肉っているのかな、と思える。
ケヴィン・スペイシーの演技が素晴らしい。彼の演技力は映画界に必要だと思うが、もう戻ってこないのだろうか?彼もまた本当の自分を隠していた1人だというのが、これまた皮肉である。